本書はハッブル宇宙望遠鏡が打ち上げられて20周年となる2010年に刊行され、かつ計画段階から打ち上げ後のミッションに携わった主席科学者のエドワード・J・ワイラー博士をはじめとするNASAのスタッフや序文を執筆されたNASA長官にしてハッブル打ち上げミッションではスペースシャトルのパイロットであったチャールズ・F・ボールデンJr.氏をはじめとする宇宙飛行士達の手によってまとめられたNASAのハッブル宇宙望遠鏡公式本ともいえる豪華な書籍です。

個人的にもこれまでにハッブル宇宙望遠鏡をはじめとして宇宙・天体写真をまとめた本は数々見てきましたが、本書に関しては前述のようにハッブルのプロジェクトに計画段階から関わってきた大本のNASAのスタッフの手によるものだけに掲載されている天体写真の一つ一つからはハッブル宇宙望遠鏡を用いた宇宙観測における最新技術の粋を凝らして撮影されたものという事を実感させられました。銀河系内の星団・星雲はもとより、銀河系外に存在する様々な銀河や銀河団といった遙か遠方の宇宙をとらえた写真からはあたかも自分が銀河なり銀河団の存在する宇宙の奥に吸い込まれてしまうくらいの臨場感すら感じられました。最新の天体観測の技術を凝らして撮影された宇宙・天体の写真はそれこそ美術・芸術の域にも達しているのではないかと思える程です。
ハッブルによってもたらされた秀麗な天体写真はそれこそ宇宙空間という大気による妨げのない場所から撮影されたものであるだけに、打ち上げから20年という歴史の中では宇宙科学や天文学における観測のあり方のみならず私達の宇宙に対する意識にも大きな影響を与えたという事も改めて認識させられました。次世代の宇宙望遠鏡としてジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が2010年代後半以降に打ち上げられるという話を聞いていますが、代替わりの時が来るまでこれから先も素晴らしい宇宙・天体写真のみならずより深い宇宙の姿というものを私達に見せてくれる事を期待しています。