物怖じせずに読んで欲しいおすすめ度
★★★★★
精神病患者の多くは自分のことを「正常だ」、と強く主張するという。仮にあなたが間違
って精神病院に搬送されたとして、医師に「私は正常です」と言ったところで、果たして
信用してもらえるだろうか。
この小説は戦時下における精神病院という特殊な環境を舞台に、正常者と精神病者を分け
る境目とは何なのかを問う。「普通」や「正常」に対する絶対的、かつ客観的基準など到
底望むべくもないが、それでも何とかそれを掴もうと煩悶する主人公の姿は真摯で、どこ
か滑稽だ。
細部まで丁寧に描きこまれており、臨場感溢れる文体は見事。また、戦時中の精神病院と
いういかにも暗そうな舞台設定だが、内容はむしろあっけかんとしており、かなり笑える
場面もあるので、「重そう」と二の足を踏んでいる方は心配無用である。
ページ数の多さやテーマに物怖じせずに、是非とも手に取ってもらいたい。楽しく読めて
唸らされる、お勧めの一冊。
一気に読んでしまう長編小説おすすめ度
★★★★★
戦時下の精神病院を舞台に繰り広げられる人間模様。この小説には沢山の重要な現代に通じる課題が詰まっている。異常と正常の境目は? マイノリティーとマジョリティーの関係は? 天皇に対する自由な意見を言えない情勢とは? 男と女の位置関係は? 女の性欲は抑圧されるべきものなのか? …数え上げればキリがない。それらが、当時のおそらくは一般的な統一見解であった何ものかが、精神病院という舞台では、時に逆転してしまうというアイロニー。登場人物がたくさん出てくるが、それぞれのキャラクターが確立されており、長編小説だが息つく暇なく読みふけってしまう。結末は、少し意外な印象をきっと多くの読者にもたらすであろう。
正常と異常の錯綜おすすめ度
★★★★★
戦時下の精神病院を舞台にくりひろげられる、混沌とした世界がこの本のなかにつまっています。正常と異常の錯綜し、優しさとむごたらしささえ逆転してしまう、結末への高まりに、眼が離せません。けれど、読み終わっても、心のなかに悲壮感が起こらないのは、作者の終末的世界をみすえた、「諸行無常」の念があればこそなのでは…?
第三次世界大戦の可能性すらある不安定な今、ぜひ手にとって読んで欲しい一冊です!