秋桜子
◆この一冊は特に興味深い。企画モノ、有名モデルモノ、アラーキーが撮りたいモデルを収めた作品、それぞれを見比べたけど、この1冊はやっぱりちょっと異質である。
◆このモデルは、アラーキーのイベントに集まった観客の一人であったようだ。で、その後、ナンパ(笑)するわけだが、図らずも彼女の成長を綴った作品となっている(この流れが事実かどうかはさして意味を持たない)。
◆1枚、1枚の写真から見えるものは愛情。写真から見る彼の視点は、恋人であり、父親のようである。そしてモデルの彼女もまた、彼に対しての安心感が現れており、その表情は穏やか。艶とか色気とか、写真によってはそれらを感じることもできるが、彼はなにか大切なものをそっと扱うように、シャッターを切っているようである。
◆しかし、モデルの彼女は、今この瞬間を過ごしているだけ。この先、シャッターを切る彼との時間が続くかどうかなんて考えていない。それがファインダー越しに見えてしまう。その寂しさは他の女性を抱いたところで無くなるもんじゃない。
◆あたかも、シャッターを切るたびに、ほんの少しずつだけど、彼女との距離が離れてゆくことを分かっていて、それを愛しむような、そんな切なさを内包しているよう。
◆モデルではなく、写真ではなく、アラーキーと秋桜子の危ういバランスの中にある2人の距離感を見ていただきたい。
◆純情なアラーキーが一番出ているんじゃないかな?そんな1冊。