再発見するまでもなく理想的なアメリカをすでに身につけている人々の記録おすすめ度
★★★★★
この本は、劇作家で俳優のサム・シェパードが“ローリング・サンダー・レビュー”の記録映画『レナルド&クララ』の脚本を頼まれた――結局執筆せず――ことから、“レビュー”に同行したさいの記録です。短いエピソードの連続なので読みやすいです。
「訳者あとがき」が指摘するように、事実の記載が非常に主観的で時には著しく歪んでいるようなので、まるごとは信じられません。とはいえ、シェパードは、アメリカの再発見を試みた“レビュー”の思想を体現する、ふたつのクライマックスを明らかにしています。
ひとつは、まったく有名でない、メイン州ウォーターヴィルでの、「長いあいだディランの音楽を聞くだけで、ディランの写真を見たことのない盲目の男」をはじめとする「金のない」人々の前で行った家族的なライヴ。もうひとつは、あまりに有名なマジソン・スクエア・ガーデンでのルービン・カーター支援コンサート。
このふたつのエピソードを読むと、なぜシェパードがディランに入り込みすぎ、記述が主観的になるのかについておおよそ見当がつきます。すなわち、たぶん、ライヴ・パフォーマー・ディランも、劇作家・シェパードも、メディア(テレビ、新聞、レコード)を介さないオーディエンスとの接触、そしてマイノリティ、冤罪者に対する共鳴と理解に帰結する理想的な“アメリカ”を、誰に教えられることもなくそして改めて発見するまでもなく、旅の前からあらかじめ自分の内にもっています。シェパードは、その“アメリカ”を文学的に確認することだけに自分の筆を賭けたのでしょう。その賭けの試みは大成功です。
なお、“レビュー”の客観的事実について知りたい方々は、ボブ・ディランの二枚組CD『ローリング・サンダー・レビュー』のライナー・ノーツ執筆者であるラリー・スローマンが1978年に出版した“On the Road with Bob Dylan”(未訳)を読むとよいでしょう。
ロードムービーのような読後感
おすすめ度 ★★★★★
ツアーの裏側で繰り広げられた、芝居がかったメンバーの人間関係。即興で演じられるスター達のやり取り。
言葉はいつも現象の名残しかとどめられないという、作者の苛立ちも伝わる。
そして、それが臨場感となっている!