捨てるところ無し!珠玉のアンソロジーは日本独自編纂。おすすめ度
★★★★★
今となっては古典となった、B級SF映画の原作小説のアンソロジーという発想が面白い。数多ある中でも、原作の面白さと大きく乖離していない映画をチョイスしているところが、選者のセンスを感じさせると同時に、捨てるところが無い珠玉のアンソロジーである。個人的に特にオススメなのは、以下の三作。
「殺人ブルドーザー」
映画の方は、スタージョン原作というだけで知名度が高く実際観たら「あぅうぁ」なマニアックなC級SFであったが、原作の方が遥かに面白いし良く出来ている。絶海の孤島で土木労働者を襲うブルドーザーという骨子は同じなのだが、モンスターとしてのブルドーザーの設定や描きこみがやはりちゃんとしているのだ。クトゥルー神話を思わせる冒頭だけで、十分に幸せな気持ちになれる。
「ロト」
映画「性本能と原爆戦」の方は、一時期、深夜枠で集中して放映していたので見た事がある人も多いと思う。あんまり面白いと思ったことが無い映画であった。が、小説の方は映画を遥かに上回る面白さ。破滅テーマなのだが、その前哨戦ともいう緊急時避難の模様をジリジリと神経を逆なでするように描写している。
そして、「ヒッチコック劇場」のようなラストへと。アメリカ人というのは何時いかなるときも、女房への殺意を忘れないんだなぁ。
「月世界征服」
同名映画は1950年製作。原作者ハインライン自ら脚本に参加している。人類最初の有人月ロケットをインターセプトして勝手に発進してしまう、月旅行計画首脳の老人たちの姿を描く、宇宙旅行テーマのハードSFである。ソ連のスプートニクが打ち上げられる三年前に作られている事に注目してもらいたい。望遠鏡観測と計算だけで算出したデータを元に月旅行の緻密な描写を練り上げたハインラインは流石。一方、フロンティアスピリッツ溢れる不良爺さん達を、卓越したユーモアで描いているので、小説としての面白さは今もって全く色褪せる事が無い。
映画は名作でなくても原作は名作
おすすめ度 ★★★★★
古今のSF映画6本の原作を集めたもの。(ただし、そのうち1本は原作者自身によるノベライズ。)またおまけとして撮影の裏話が1本ついています。
名作といわれている映画ばかりでないのに躊躇するかも知れませんが、ここに集められた小説はみな名作だと思います。はっきり言って映画と全然違うものがほとんど。
最初に載っているブラッドベリの作品などその存在さえ知らなかったですし、内容にも驚かされます。これを含めて4編は初訳で、残りの2編も入手が容易ではないですから貴重です。
解説もとても充実していてこれだけでも一読の価値があります。