幻影は市電に乗って旅をする [DVD]
ブニュエルについては、日本でもいくつかの特集上映会や、ビデオリリースなどもありましたが、全作品のリリースは未だに実現していません。このBOXシリーズが実現してくれるものと期待しています。さっそく未見であった「皆殺しの天使」を見ました。これぞブニュエル!と唸らせてくれる傑作です。特にラストは、何とも言えぬ、可笑しみがこみ上げてきて、思い出し笑いで尾をひきそうでした。「エル」のジグザグ、「ナサリン」のパイナップルなど、ブニュエルのラストは本当に素晴らしい。笑える映画はコメディばかりではないということをつくづく感じさせてくれました。
ブニュエルは「アンダルシアの犬」があまりに有名で、これは29才の処女作ですが、全32作品のうち29作品は45才を越えてから撮っています。人生の喜怒哀楽を知り尽くした人ならではの余裕のある表現がなんともいえぬユーモアを生み出しているのでしょうか。同じスペインの文豪セルバンテスも、傑作がが晩年10年に集中していて、かの「ドンキホーテ」も人生を知り尽くした人ならではユーモアが溢れていて、なにか通ずるものを感じました。
京都市電が走った街 今昔 JTBキャンブックス
学生時代は、西大路四条から市電に乗って大学に通いましたので、青春時代とオーバーラップしました。この本に掲載されている写真の一つ一つが当時の車窓を思い出させるもので、本当に懐かしく読みました。
全国で最初に市電が走った街ですので、その路線系統の確認と各電停付近の町の様子を知るには最適の本です。資料的価値としても貴重です。使用されている写真と周りの景色も、現在の位置と同様の定点観測のように撮られていますので、街の変遷が良く分かりました。
四条大宮からでていた「トロバス」も良く乗りました。これに乗りながら松尾橋へ行き、橋のふもとの桂川で泳いだものです。電気自動車ですから、今で言うエコカーのはしりのようで、環境に配慮された乗り物でした。スピードは出なかったですが、乗り心地は良かったように思います。終点の四条大宮でのUターンは、なかなか迫力がありましたね。この本によれば、昭和43年に廃止されました。なくなってから40年近く経ちました。
昭和45年に廃止された伏見線にも懐かしい思い出があります。中書島から京都駅まで長い距離を市電が走っており、この本でも紹介がありますが、京電の残存区間だったのですね。父親に伏見の大手筋の映画館に連れていってもらい、遅い夕食を取った後、京都駅までの時間がとてつもなく長く感じられました。
当時の京都を知って入る人には懐かしい風景を思い起こす本ですし、若い世代の方には、無くなった市電のよさを少しでも感じていただければ良いと思います。
貴重な写真が詰まっている書籍ですので、資料的な価値も高いと思っています。
市電の走る風景: 京都写真館
先年鬼籍に入られた品川文男氏の『回想のアルバム 京都市電』(平成11年1月)をもとに再編集した写真集でした。モノクロですし、回想文も少なく、全編市電を中心とした写真で構成されています。
冒頭の四条通りに面したビルの屋上から俯瞰して撮影したメーデー(昭和33年5月)の写真に見入りました。市電も写し込まれていますが、高い建物の少ない京都の瓦屋根の町家に時代性を感じます。
同様に懐かしの北野線の電車や市井の人々の着物姿に昭和36年当時の京都の情景が浮かび上がってきます。
四条通りを走るトロリーバスも同様ですが、背景の阪急電車大宮駅ビルは今と同様なのが不思議です。19ページの昭和45年3月の伏見稲荷線廃止時の花電車の写真は貴重でしょう。
七条大宮の背景の高架陸橋や新幹線、東寺など、市電と往来のクラシックな車がなければ今と同じです。祇園石段下と市電の写真など、京都の街に相応しい乗り物だと改めて実感しています。九条大宮付近の東寺の五重塔とのツーショットでも同様の感を受けました。
丸物も前の京都駅も今はありません。四条通りの市電と路面で交差する京阪電車とのツーショットも貴重でしょう。背景の菊水ビルや南座は今も健在ですから、その違いが感じられました。
人々の服装や車の変遷、街並みの変化など、市電以外の要素も楽しめる写真集です。電車が好きな方は勿論、今と昔の京都の姿の比較人々の服装の変遷を懐かしむのにも良い内容だと評価しています。
巻末に、市電廃止記念一日乗車券(昭和53年9月30日)が掲載してあり、昭和36年3月31日の路線図、同じく昭和36年4月の系統表、市電のあゆみなど、資料価値も高い本です。