不幸な生い立ち・・・おすすめ度
★★★☆☆
簡単にジャンル分けしてしまえば、猟奇殺人をテーマにしたサスペンスというところでしょう。ただそう一言割り切れないのは、彼が天才的かつ職人気質の香りの芸術家だったからでしょうか?確かに彼は生まれながらにして素晴らしい才能に恵まれていました。しかし同時に彼は人間らしい愛情表現の方法を知らずに育ってしまった。これが悲劇の元なのでしょう。
彼は女性の香りだけを引き止め、保存しようとしましたが、後に彼は、彼女そのものを引き止めておけば良かったのだとやっと気付き、涙します。奇怪なラストは、初恋と言えるヒトを手にかけてしまった彼の張り裂けるような悲しみと、今までの孤独で切ない人生をかき消したい思いを表現したものなのでしょう。
香りは体験できなくとも、18世紀を再現した重厚で美しい映像がこの神秘的で切ない作品を引き立てています。
絵が美しい映画…おすすめ度
★★★☆☆
この映画で特出すべきは画面の美しさとダスティンホフマンの名演技だろう。構図、色ともとも良く気持ちが良い。天才的な男の話だが、前半は男の卓越した能力で楽しめたが、後半はあまりに凄すぎるので「ホラ吹き男爵の冒険」に似た感じがした。山の上から数キロ離れた場所を馬で疾走する女性の残り香をかぎ分けるシーンなど思わず笑う。
後半はファンタジー色が強く、前半の歴史に隠れた逸話っぽさがなくて残念。
映画として絵が美しいのでプラス1。
においフェチの変態殺人者が活躍するブラックコメディ。映像がきれいすぎるのがやや難点
おすすめ度 ★★★★☆
舞台は中世フランス。悪臭みなぎる魚市場のゴミためのなかに産み落とされた主人公の男は、その生まれの故か、犬をも蹴落とす驚異的な嗅覚の持ち主。そこらに落ちてる薄汚い石ころだろうが、ウジがわきまくるネズミの死体だろうが、とにかく何でもかんでもにおいをかぎまくる。そしてもちろん、彼も男。世界に無数にあふれるにおいの中でいちばん好きなのは、当然ながら若い女のにおいだ!大好きな美人のにおいをコレクションして究極の香水をつくるべく、男は次々と殺人を犯し、そして……
というわけで、臭いフェチのハイパーど変態が大活躍するピカレスク映画ですな。連続殺人のお話だけど、視点は被害者ではなく、加害者である主人公におかれている。「もっとやれ、どんどん殺せ!」と声援を送りたくなる感じだ。だって彼、がんばってるんだもの。
出自の卑しさに加え、まともなコミュニケーション能力が欠けているというオタクっぽいハンディキャップをはねのけ、彼は香水屋に弟子入りを果たす。むかつく雇い主の無茶な要求に耐え、空き時間を見つけては研究に励むなど、働きぶりは熱心そのもの。そのすべては、一過性の女のにおいを保存する方法を修得するため。持って生まれた才能に加え、こうした長年の努力を続けた末、彼はついに女のにおいを取りだして液体に閉じこめる方法を編み出した!こんなにがんばった彼が何人殺そうと、だれがそれを非難できましょうか。
最後の殺人がとくに素晴らしい。目をつけたのは、貴族の一人娘である町一番の美人。でもそれまでに12人も殺しちゃったから、相手もすごく警戒しているし、なにせ貴族で金持ちなので防犯対策も念入りだ。それでも迫りくる魔の手に気づいたお嬢ちゃんは、父ちゃんに連れられて町を出て、馬に乗って疾走し、なんとか避難しようとする。ところが男は警察犬以上の嗅覚を活かし、においをフンフンとかぎまくって大追跡!海沿いの宿に追いつめた令嬢の寝室に侵入することに成功し、ついに本懐を遂げるのであった。
もちろん完全なブラックコメディである。13人分の女のにおいを混ぜ合わせた究極の香水はすごくて、嗅ぐと発情しちゃうのね。令嬢を殺したあと、死刑が決まった男は群衆の前に引きずり出されるんだけど、そこでこの香水をちょちょいと振りまくと、えらい神父さんをふくめてみんなが理性を失い、広場で大乱交パーティがおっ始まったりとか。
こういう筋書きじたいはすごくおもしろいんだけど、けちをつけるとすれば、映像とか演技とかが重々しいのに加えて、場面展開がゆっくりしているから、あんまりコメディっぽくないこと。もっと軽薄でチープなノリにすれば、笑いどころがわかりやすくなったと思うのに。映画館でも、ぼく以外の笑い声は聞こえなかったような。もったいない。
あと、これって翻案がいろいろできそう。いまの日本だったら、やっぱ秋葉系のオタクで決まりかな。フィギュア作りの天才が、幼女を誘拐してはその死体をいじくりまわし、究極の萌えを追求する、とか。とても放映できないやばすぎる映画になってしまうかもだけど。
概要
スコセッシ、スピルバーグら多くの巨匠が映画化を熱望したベストセラーを、『ラン・ローラ・ラン』のトム・ティクヴァが監督。数キロ先の匂いも嗅ぎわけるという、類い希な才能を持った青年グルヌイユが、香水調合師となる。究極の香りを求める彼は、その“素”として女性の肉体にたどりつき、次々と殺人を犯していくのだった。18世紀のフランスを背景に、シリアルキラーの物語ながら、映画全体にはどこかファンタジックな香りが立ちこめる異色作に仕上がっている。
グルヌイユが産み落とされる魚市場、一面の花畑と、誰もが感じるものから、「濡れたカエルの手の匂い」など不可解なものまで、その場の匂いが漂ってくるような映像が必見。女性の死体から香りを採取するために使われるマニアックな道具も見どころだ。これまでも映像と音楽の関係にこだわってきたティクヴァ監督は、クライマックスの大群衆シーンでその才能を発揮し、観る者の度肝を抜く世界を展開していく。匂いにとりつかれたキワモノ的主人公に、いつしか共感を誘われてしまうのだから、この映画、ただものではない。(斉藤博昭)