生活観とユーモアあふれる作家稼業入門おすすめ度
★★★★★
本書の内容は主に、以下の3つに集約される。
第一は、新人賞をとることが出発点ということで、複数の賞に応募する「サイクリック投稿法」等新人賞のとり方が説明されている。例えば次のような実践的アドバイスがある:
①地方公共団体や、出版とは無関係な法人が主宰する新人賞は、仮に名のとおった小説家が選考委員になっていたとしても、受賞経験が小説家のキャリアとしてはカウントされない。
②自分のデビューしたいジャンル以外の本を意識して幅広く読むこと。
③「コピー劣化」の法則と言うのがあり、手本にした作品を越える事はできない。
第二は、受賞後の編集者とのつき合い方、同業者組合に入るべきか、税金はどう処理するかなど生活者としての小説家について細かく書かれている。
第三は、転職して作家になろうかと思っている人のためのアドバイスが豊富にある。脱サラして小説家になるなら、サラリーマンのあいだにクレジットカードは入るだけ入っておけ、奥さんに働かせるなら家事はしっかりやれ、などなど。著者は、タイトーというテレビゲームの会社の営業をしていたが、上司と折りあり悪く脱サラを決意、宅建と行政書士の資格取得と小説執筆を並行してこなし、資格がとれたので1年後に会社を辞めたのが27歳。ところが、賞に落選し続け、小説のスクールに通うなどして結局デビューをしたのが31歳。だからと思うが、「デビューするまでは(してからも)、決して会社をやめてはいけません」とアドバイスをしている。
文章はテンポが良く、ユーモアたっぷりで一気に読める。
職業作家の実務マニュアル
おすすめ度 ★★★★☆
真面目な本だと思います。著者の姿勢に好感が持てました。
書名が作家になるためのHOW TO本のようなので、間違われやすいのが著者にはお気の毒です。これは徹底した職業作家の現実の実務の書です。文学論や芸術論を展開しようなどという意図は最初から著者にはなかったと思います。作家といえども生活しなければ生きていけませんし、生きていけなければ創作どころではありません。生活も創作も作家の表裏であり、どちらか一方しか書かれていないものには(私は)大人げなさと喰い足りなさを感じていました。また、この手の書籍の多くは、創作や個人的な文学雑文類が多く、いささか食傷気味でもありました。その意味では、逆面からの、たいへん小気味のいい一冊です。現代職業作家の一面を見て、そこから現代の文学状況を考えることができるのではとさえ思ってしまいました。一読の価値ありと思います。