テーマと人物描写おすすめ度
★★★★☆
今回は、テーマが大きくて、その分人物描写が薄くなった感がある。とりわけ、仙田と香田については、シリーズを通じて重要な人物であっただけに残念だ。
また、女性について。明蘭の倫理観の欠如は、中国人その他の外国人が、日本で必ずしも正当とはいえない扱いを受けていることの反面なのかもしれない。が、いかんせん魅力がない。何よりも、仙田がなんで明蘭にあそこまでこだわったか、理解しがたい。晶については、従来からのファンは以前から不満を抱いている。今回に限っては、思い切って一切登場させないという手もあったのではないか。この辺はシリーズものの難しさかもしれない。
一方、大きなテーマについては、共感できるところが多かった。物の流れは人の流れを作る。外国のモノが増えれば外国人が増えるのもまた必然だ。それに伴い犯罪形態が従来と大きく異なってくることは、以前のこのシリーズでも取り上げられている。この点を「都市」というキーワードで説明しているが、ごく普通の読者には、ややくどいかもしれない。
最先端のテーマを取り上げて、物語の重要な要素に仕立てあげ、さらに、中野学校という警察の歴史の暗部に踏み込んで、「都市」に絡ませる。おそらく今回はこちらのほうに比重が置かれたのだろう。
ただ、大沢独特の、登場人物による会話の妙は健在で、私としては、これが楽しめただけでも、十分読む価値はあった。
水準は高いおすすめ度
★★★★☆
久しぶりの新宿鮫シリーズ.
相変わらず水準は高い.
しかし,雑誌連載だったためか文章にくどさが目立つ.
特に最初の数十ページは飽きる.
ストーリー☆☆☆☆
人物描写☆☆☆☆
背景描写☆☆☆
どうせ加筆修正するなら大幅に削った方が読み手をもっと引き込むだろう.
また,大幅に加筆して,人物描写に厚みを持たせてもよい.
初期のように,新書で原稿枚数をあらかじめ設定して執筆したほうがクオリティは上がるのではないだろうか.
長いこと待ってよかった……!
おすすめ度 ★★★★★
新宿署のアウトロー刑事鮫島が活躍する「新宿鮫」シリーズ。
ファンにとってはまさに待ってましたの9冊目が本書だ。
何を隠そう、鮫島とは因縁の関係だった仙田とついに決着がつくのだから、本書を読み逃す手はない。今作ではアフリカから入る麻薬と故売マーケットを追うわけだが、その中で犯人側と警察側の人間関係がいりみだれ、個々人の心理状況もあいまって、緊迫した空気が作中常にある。仙田の過去、香田の信念、そしてしたたかに強く生きる呉明蘭。
面白かった。のめり込むようにしていっきに読んでしまった。久々に濃い読書ができた。
今作はシリーズのターニングポイントになったわけだけれども、鮫島があずかる遺書や晶との関係など、気になる複線はまだ残っている。次作がまた何年も先になるかどうかわからないが、楽しみに待つことにしようと思う。