ラングの反ナチ・サスペンスおすすめ度
★★★★★
ナチ占領下のプラハで、「死刑執行人」と呼ばれるナチ高官が暗殺される。
ナチは報復として、犯人が名乗り出るまで市民を処刑するという暴挙に
出るが…。
時の宣伝相ゲッペルスに映画部門責任者への就任依頼を受け、アメリカ
へと亡命した経緯を持つラング(彼自身はユダヤ人)による、悪夢的ムー
ドで描かれる反ナチ・サスペンスの傑作。名手ジェームズ・ウォン・ハ
ウによる光と陰のコントラストの強い撮影が、プラハの町並みを出口の
ない迷路のような印象にしている。加えて、ラングの畳み掛けるような
サスペンス演出と生々しい暴力描写がより不安感を煽る。
映画史的には、アメリカに亡命中だった劇作家ブレヒトの原案・脚本で
あることも有名で、「Aに話せば、やがてB、Cに伝わり、最!後!にはG(ゲ
シュタポ)にたどり着く」というウォルター・ブレナンの名セリフは、彼
のアイデアによるものだそうだ。
キャスティングも相当異色で、小悪党的な役が多かったブライアン・ド
ンレヴィを主役に、気のいい人物役のジーン・ロックハートを悪役に据
えたあたりは、ラングの意欲のあらわれといえる。
本DVDは、かつて劇場公開され、その後ヴィデオ・LDで発売された120分
版より約20分も長い完全版。それ自体で、大変意味のあるDVDなのだが、
残念ながら画質があまりよくない。99年、東京の三百人劇場で行われた
「フリッツ・ラング映画祭」での上映プリントをそのまま使っているせい
だろう。
概要
第2次世界大戦中のドイツ軍占領下のチェコ、プラハでナチスの地区司令官が暗殺された。犯人であるレジスタンスの医師フランツ(ブライアン・ドンレヴィ)はマーシャ(アンナ・リー)一家のアパートに身を隠すが、ナチスは市民を無差別に逮捕・連行していき…。
ナチス・ドイツを嫌いアメリカに亡命したフリッツ・ラング監督と、劇作家のベルトルト・ブレヒトらが、実際に“死刑執行人”の悪名をとったナチス高官ハイドリッヒ暗殺事件をヒントに、共同で原案・脚本した反ナチ映画。ナチへの憎しみを隠すことなく、しかしそれをあくまでも娯楽映画の範疇で的確に描ききるラング演出が見事である。ラストのおちも、何とも皮肉的だ。戦時中の作品だっただけに、日本では長らく未公開のまま幻の傑作とも称され、1987年にようやく公開されるとともにラング監督再評価のきっかけともなった。ヴェネツィア国際映画祭特別賞受賞。(的田也寸志)