行け!君は勇者だおすすめ度
★★★★☆
『小さき者へ・生れ出づる悩み』です。
北海道を舞台とした有島武郎の代表作二編を収録している、ということになります。
いずれの作品も、一人称……というよりは二人称ですね。
作者が、書簡で相手に語りかける感じ。
「小さき者へ」は病死した妻が残した子供たちへの未来に託すメッセージ。「生れ出づる悩み」は、漁師をしながら絵を描き続ける君に対する、文学者という立場からの羨望と嫉妬の感情。
両作品とも、作者の心境、メッセージが直截で、小説作品としては物語的にどうかと思います。
物語としての面白さを求めるならば、あまり期待はしないでください。
ただやはりストレートな心境なだけに、非常に力強い作品です。
そして両作品に共通していえることは、作者本人については、文学の道にありながら、思うように良い作品を書けているとはいえず、思い悩んでいる姿が率直に描かれていることでしょう。行け!とメッセージを残している作者自らが、自身の苦悩している姿を描くことによって、道の険しさを示しています。
それでも。
勇者は進むのでしょう。未来へ向かって。
自身の才能への疑念の素直な告白おすすめ度
★★★★☆
「生れ出づる悩み」は、主人公は職業作家でありながら思うような作品を生み出せず悩む(=題名)。一方、偶然に知り合った青年は漁師を続けながら絵を描いているという境遇だが、その才能と執念は驚くべきものがある。
芸術を志す者が誰でも感じるであろう、己の才能への疑念と、他者の才能に対する羨望と嫉妬を素直に描いた作品で、その素直さで逆に印象に残る。
「小さき者へ」は息子へのメッセージだが、文学として昇華されているか否かは疑問。ただし、いずれも作者が自身の感情をそのまま表現している事にある種の感慨を覚える。私小説とは異なるのだが、作者を取り巻く環境を率直に表現して読者の共感を呼ぶ作品集。
良作おすすめ度
★★★★★
深く生きることについて考えさせられた作品。
表題作二編は息子と、画家を志す友人へのメッセージとなっています。両作品の最後、
行け。勇んで。小さき者よ。と、
君よ!と、強く訴えかける部分はこうしてレビューを書きながら読み返してみても深く感動させられます。
これから強く歩んでいかなければならない息子たちに、画家を志すにも周囲の環境がなかなか許さない友人に、強く、 夢をあきらめずに進んでいってほしい。その思いが文章の中に溢れ出ています。
今、メディアなどで学生の自殺の問題が大きく取り上げられていますが、この作品はそれらの人生に悲観している人たちを勇気づけるのに十分ですし、こんなことが言えるのか分かりませんが、生きる事の素晴らしさを感じさせてくれます。
読んで損は無いです。というか、是非読んでいただきたいと思っています。
疑問おすすめ度
★★★☆☆
「カインの末裔」よかったです。
「小さき者へ」もよかったんだけど、疑問点をひとつ。
こういう息子への手紙を、貨幣価値にして商品化するのはいかがなものでしょうか?
こういう個人的な手紙は、そっと息子へ届けてあげたほうがいいんじゃないかな。
逆境の中でも絵を描く青年
おすすめ度 ★★★★★
少年は十年後青年となっており、北海道から絵を送ってきた。生活のために学業をなげうち、家業である漁業に精出す「君」は、その逆境の中でもどっしりと腰をすえて、生きるために力いっぱい戦っているのだった。さらに、「私」の心をとらえて放さなかったのは、絵を描くことへの執着、青年の芸術に専心するひたむきさだった。「誰も気もつかず注意も払わない地球の隅っこで、尊い一つの魂が母胎を破り出ようとして苦しんでいる」という言葉が、この小説のテーマである(雅)