男親=社会との闘争の視点 おすすめ度 ★★★★★
自分はかつて栗本薫(中島梓)のファンで彼女の著作で森茉莉の存在を知りました。しかしそれはあくまでも当時稀少だった同性愛をテーマにした作品の著者というだけで、森茉莉そのものは変わり者の小説家、くらいに考えていました。
この本では中島梓のそんなスタンスが完膚なきまでに粉砕されています。
森茉莉があまりにも巨大だった父、森鴎外にコントロールされていたこと、
それゆえに「お茉莉が泥棒でも大事な娘だ」と思われておらず、父の意を受けて架空の世界で自分を守るために作品をつむいでいたことなど、著者の視点を得てはじめて思い至りました。
森茉莉という仮面を通して著者の実像もよく見えてきます。
父=社会的構造、男根主義的文藝世界と常にまっこう勝負をして圧勝してきた著者ならではの素晴らしい評論であり、オマージュであり、哀悼歌でもあります。
弱きものとされてきたこども、女性、マイノリティからの胸のすくような反逆の書として、私は拍手喝さいを送りたいと思いました。
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