新釈 走れメロス 他四篇 (祥伝社文庫 も 10-1)
森見登美彦は、書店で何の気なしに手に取った『夜は短し歩けよ乙女』がたいそう面白く、その他の本も読んでみたいと思っていた。ら、書店でこんな奇妙な本を見つけてしまい「これは読むしかないでしょ」と即購入。
で、買ったその日のうちに、一気に読み終えてしまいました。だって、もう、むちゃくちゃ面白かったんだもの!
太宰治の「走れメロス」を始め、中島敦の「山月記」、芥川龍之介の「藪の中」、坂口安吾の「桜の森の満開の下」、森鴎外「百物語」の5編の…どう言えばいいのだろう。現代版リライト?文豪へのトリビュート?それとも単にパロディでいいのか?とにかく、以上5編、それぞれの舞台を現代に移し、主人公を京都の大学生に置き換えることで、全く違うような、それでいてコアの部分は同じであるようなお話に書き直しています。
しかし、いやいや、これは本当に面白かった。この人の文体は一歩間違えばラノベ調となってしまいかねない軽さを持っているのだが、深いインテリジェンスに裏打ちされていることで単なる軽薄・浅薄となることをちゃんとまぬかれていて、このテンポの良さは読んでいて素直に小気味よい。
表題作「走れメロス」なんて読みながら爆笑の嵐だし、そのためかレビューでも「可笑しい」「笑った」といった表現が目立つのだが、それだけに留まらない奥行きがあることも書き添えておきたい…他の四編はむしろ「笑い」よりも「ペーソス」を感じさせる。殊に「桜の森の満開の下」(ちなみに、私はこれの安吾のオリジナルがそもそも大好きなのだが)には、読んでいてじんと胸を打たれるものがあった。
なお全5編のうち、最後の「百物語」だけはオリジナルを読んだことがない。森見版を読んで、鴎外のもちゃんと読もうと思いました。
ところで、この人のお話って伊坂幸太郎みたいに、細部でリンクし合っているのかな。「夜は短し〜」ともリンクする部分が散見されて、そういう他作品との繋がりに気づけるとニヤニヤできる、というような楽しみ方もありそう。
月山・鳥海山 (文春文庫 も 2-1)
リアリズム小説の形をとりながら、同氏の『意味の変容』で書かれた数理的な世界観を見事に具現した佳作。「即身成仏の隠喩」と安易には片づけられない。同氏『浄土』と併せて読むことをおすすめ。
ねじまきカギュー 4 (ヤングジャンプコミックス)
4巻序盤で、ついに強敵・紫乃との決着が付く。
ネタバレになるので詳しくは割愛するが、風紀委員編のラストのシーンは非常に感慨深かった。
今後の彼女の活躍に大いに期待したい。すっかり紫乃派になってしまった。
そして、新キャラの表紙の彼女。(彼?)
本来このような設定を安易に使ってほしくないような設定ではあるのだが、この作品は主人公が男勝りのボーイッシュなかっこいいタイプのキャラであるカギューであったり、美系・長身の織筆などもいるためあまり違和感なく溶け込めたのではないかと思う。
そして新たなる脅威が現れたかと思うと、まさかのそれを上回るであろう恐るべき新キャラが登場する。このキャラの強さを表現するために同じ新キャラ3人をあっという間に使い捨てにするあたり、独特のセンスが光る。
過去最長のおまけ漫画やサイン色紙プレゼントなど、雑誌ですでに読んでいる読者へのサービス精神も非常に感じられる4巻だったと思える。次巻も非常に期待。
『神様のメモ帳』ドラマCD
ある理由で服を買いに行ったナルミが、詐欺師に騙されてしまい、後日同じビルでヤクザが騙される事件が起こっていた、って話です。
新しいイラストは、表紙と、詐欺師二人ののみでした。ナルミが買わされた服を着てる二人が、ちょっと見たかったかなと思いました。
脚本が「鴻野貴光」さんという、知らない人だったので内容が心配でしたけど、そこは杞憂でしたね。
小説では表現しきれない、ヤクザ? の迫力の一端を聴けますし、中々いい買い物をしたと思います。
栞ですが、こちらで購入したためか、ついてませんでした。
われ逝くもののごとく (講談社文芸文庫)
終戦後の庄内地方の地理や風俗、信仰などが方言をベースとした人間関係描写で記述され物語が進む。前半では話題展開の遅さと展開のしつこさを非常に感じ疲れた。後半は展開が早まり一気に読みたくなったが、「逝く」ことがキーワードであるものの展開の唐突さや不自然さを感じ続けた。最終章で標準語の語りで総括がなされる。読後感はひとそれぞれの違いが際立つ作品と言えそうだ。「月山」を先に読むことをお薦めする。