伝奇ノ匣〈1〉―国枝史郎ベスト・セレクション (学研M文庫)
昭和初期に活躍した国枝史郎の魅力といえば、ほとばしるイマジネーションを基にした雄大なストーリーとケレン味溢れる設定ですが、その一方で、かっちりと纏め上げた短編の書き手でもあります。この傑作選は代表長編と佳作とされる短編数編を収録し、国枝史郎の入門篇としては、なかなか良い仕上がりになっています。国枝を読み込んだ人には多少の中途半端さを感じさせますが、ロマンの香り濃厚な幻の処女戯曲集の復刻を見逃す手はありません。文庫としてはやや高めの価格も、本のボリュームを見れば納得でしょう。すべての伝奇(時代)小説ファンに勧めたい一冊といえます。
神州纐纈城 (河出文庫)
富士の本栖湖の霧に包まれた中にあるみずき城の城主は、癩病に犯されて憎悪の権化と化して、人の血を絞って纐纈の赤い布を染めることを、慰めとしている。又、富士山中には、殺人を楽しむ邪剣の主がいる。両者とも妻に裏切られ、その憎悪から悪に浸る。一方、不義の愛に生きる者も、世を追われ荒野を彷徨う。無明の明けることもなく、物語は終わる。