遺恨あり 明治十三年 最後の仇討 [DVD]
視聴率の取りずらいであろう時代劇は、恐らくスポンサーが付きづらいはずです。
にも関わらず、よくぞこれほどの作品をスポンサーありきの民放が作ってくれたと、万雷の拍手を送りたい。
世辞でもなんでもなく、本作は映画として公開しても遜色ない出来です。
音楽、演出、演者、全てが素晴らしく、視聴後は感動すら覚えました。
本来、こういった作品こそスポンサーが必要でないNHKが作らなければならないはずなのですが……
某大河ドラマに絶望を感じた時代劇ファンの方は、ぜひ本作をご覧ください。溜飲が下がること間違いありません。
妖精鬼殺人事件 (魔界百物語01)
「魔界百物語」というシリーズ名ですが、京極夏彦のような重たいオカルトテイストではなく、精神科医、氷室が心理から事件を読み解く、現代的でスピーディな一冊です。
冒頭、離婚相談に来たはずのコスプレふうの女性が、氷室に向かって9.11事件陰謀論をぶちあげるところから、いっきにひきこまれます。
この妄想がふくらんで社会問題にリンクしてゆくのか、と思わせられたところで、一転、鮮やかに、ストレートな団地の人間関係にスライド、この女性の子どもが墜落死する事件が。目撃者の女性のリアルな目線に続き、あたかも眼前で起こるように活写される事件の流れ。
今回の事件自体は、世界史的陰謀や社会の暗部とはかかわりなく、団地の人間関係を中心にほぐれてゆき、やがて「魔界」を暗示するQAZも後ろ姿的に登場しますが、氷室の推理でほぼ全貌がクリアーに解きあかされます。冒頭の女性の行動の意味、さりげない子どもの言葉、貼り紙、などすべてが意味ある伏線として結びあい、ジグゾーが組み合わさるように緊密に人間の心理模様がたちあがってゆくプロセスはスピーディでスリリング、とちゅうで一度も本をおくことができませんでした。
一連の事件は、これだけをリアルニュースとして読めばすこし規模の小さなものではありますが、「妖精鬼」という童話的テーマの導入、また背景に、今後、シリーズ背景を広げてゆくであろう超能力美女や天才少女らのさりげない登場ふくめて、壮大なフィクションとして独自の世界観を予感させ、著者の「ライフワーク」になるのだろうと期待できます。今回は特にその前奏曲かと思います。
著者あとがきを読むと、アナログ的時代から、デジタル化情報時代に切り替わり、主人公の立ち位置や世界観も思い切って一新する必要にせまられた、とあります。それにともない、オカルト色より心理分析とミステリの原点(著者のお得意の二回転半ひねり)への回帰、と満を持して放った新シリーズ、時代をもひとの心の病理をも射貫いている鮮烈なミステリだと感じました。
ヒマラヤの風にのって 進行がん、余命3週間の作家が伝えたかったこと
還暦の誕生日から2ヶ月の若さで永眠された吉村達也氏の遺作。
彼の死を受け入れることができるまで3ヶ月という日数を要した私の疑問を、この作品で解決してくれた。
未完に終わったシリーズ作品の結末が知りたくてずっと待っていたが、結局どうなるんだろうという不安は残るが、最期の日を家族と迎える心構えや病人としての考え方など、いろいろ参考になった。
ご冥福をお祈りします。合掌。