世代間連帯 (岩波新書)
なぜ、今こそ、「(世代間)連帯」が必要なのか。
それは、それなくしては、社会が持続していくことができなくなるから、
今それをしないと手遅れになるから。
自分は、男女共同参画や子育て支援関係の行政に関わる立場から、あれこれ学び、
考える中で、つきつめるところ目指すところは…「社会が持続可能であること」であり、
そこを目指す上で、世代間の格差とそこから闘争状態が生じてきていることが最大の
阻害要因だと感じるようになってきた。
が、「感じる」けども、うまく「説明」ができない。
この本は、そこをとても分かりやすく説明してくれていて有難い。
医療、福祉・介護、貧困、労働…などの社会課題もすべて関連してくるのは当たり前で、
本書ではそのあたりも…というか、そのあたりをメインに取り上げている。
自分は、辻元清美という政治家の言動が感覚的に好きでないし、本書の中でも
政治的というか政争的な発言をしている部分には首を傾げる点が多かったが、
上野千鶴子にストレートに意見をぶつけ、上野の社会学者・社会政策立案者としての優秀さを
わかりやすく引き出したことに感謝。
上野も「おひとりさまの老後」では独善的・利己的な書きぶりが目立つと(自分には)感じたが、
社会システムを総合的に見れる学者としての優秀さはさすが。
完全に余談になるが、ジェンダー平等が日本である程度まで実現していたら、
上野のような優秀な頭脳は別の事に活躍してもらえるのだろう。その点だけでも、
ジェンダー平等でない状態はもったいないのかも。。。
いま、「政治の質」を変える
この本は、随所に著者しか知らない小さいエピソードが散りばめられていて、ヒューマンウォッチング的な関心もそそられる。身近で見た鳩山氏、菅氏の溜息とか怒り、仙石氏の涙とか。
それは著者が現場主義に立って色々な所へ足を運ぶというピースボート時代に培ったフットワークの良さが大きく寄与しているのかも知れない。「イザとなったら寝袋で寝たらいいやん」という感覚は今時の政治家の中では貴重だ。
そして、色々な苦難を経る中で、しぶとく、したたかに学ぼうとする著者の基本的な姿勢が随所に読み取れて興味をそそられる。著者の一風変わった遍歴(自社さ政権与党で出発、野党側追及の女王、逮捕・裁判、副大臣、総理補佐官と思わぬ道を歩く)が普通の政治家にはないものだけに、学ぶべき場面が豊富だったせいもある。
それにしても、この著者ほど、その立ち位置を変え、それ故に政治的スタンス、視点・視野を変化させてきた政治家も珍しいのではないか。それも偶然と言うか、チョッとしたアクシデントとさえ言える事情で、予期しない道を選択して行く。国交副大臣に就任することになる経過も正直に語られるが、そのまま社民党の国対委員長であったなら、今の著者はなかったはずだ。そして、東日本大震災が起こっていなければ、総理補佐官に就くことも勿論なかった。しかも社民党が政権を離れ、著者が無所属のままであれば、尚のことあり得ない話だった。
著者も何度か本書の中で語っているが、政権・政策への監視、追及は政治家として大変重要な責務だし、その点で著者の果たしてきた役割も大きい。しかし、政治の具体的展開の中に入るということも、それ以上に重要なことだという主張は頷ける。しかも、そこで仕事をしたからこそ知り得たことはとてつもなく大きいようだ。
そういう具体的展開のディーテイルが豊富に語られていることが本書の特徴なのかも知れない。例えば官僚とのやり取りが失敗談も含めて描かれているシーンは幾つもあるが、微笑ましくさえある。その中で抑えなければならない幾つかの重要ポイントの提起は、今後の政治家と官僚の関係の結び方の参考にもなるのではないか。
もう一つこの本の注目すべき点は、政権担当者の素顔、本音に触れられていることだろう。鳩山、菅両総理大臣の総理としての資質に少し触れながら、近くで見たが故のそのあり方を語っているところは、今後の連立政権時代の総理を考える時、参考になる視点かも知れない。
もっと直截に言えばこの政権で何が足りなかったか、何が補充されなければならなかったのか。もちろん、理念が重要なことは言うまでもないとして、それだけでなく、具体的に運営とかマネジメントとかを丁寧に大切にすすめられること。そして当たり前のことかも知れないが、キチンと人と繋がることの大切さを語っている。
結論部分の社会の「質」を変える、そのために政治の「質」を変えることへの具体的提起は抽象的で、もう一つ説得力に欠けるのは、残念だ。ただ、人々の意識レベルまで「質」を問うことになると理性とか良心とかに及び、問題は相当難しいことになってしまいそうだ。