船を建てる 上
長らく絶版だった名作が完全収録で復刊され、発表当時からのファンとしてとても嬉しい。
上巻の中では、汽車に乗った老人のエピソードが特に好きだ。
老人にとっての「アメリカの海」は、自分にとっての「船を建てる」の世界と同義である。
老人の中で、過ぎた日の「アメリカの海」の思い出がリフレインするように
美しく詩的で愛らしい佇まいに無情と残酷さを内包した「船を建てる」の世界は
初読の時からずっと、自分の中で美しい響きをたてている。
ただ、サイズが旧版より小さいせいか、トーンの再現性などの点で印刷の質が旧版より悪く見える。
特筆すべき書き足しはなく、本当に作品を完全収録しているだけなので(それが美点でもあるが)
旧版を持っている者にとって「お得感」は少ない。
未読の方には、文句なくお勧め。
旧版を持つ人は、現物を確認されて一考されるもよし、という感じだ。