ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第
オピッツは聴いている人を、何かワクワクさせる魔力的な演奏哲学をもったピアニストだ。ことにベートーヴェンのコンツェルトは水を得た魚のように非常にいきいきと、ピチピチとしている。同じ曲内容、つまりベートーヴェンのコンツェルト5曲だがペーター・レーゼルという旧東ドイツ出身の名手と比べると面白い。彼は非常に美しい音で醜い音は一切出さない。そして一定の枠を超えない表現だ。だから聴き手は安心して聴けるが何か刺激が少ない演奏であるから賛否両論があるだろう。対してオピッツはまずレーゼルとは一線を画して速めのテンポによって進められ、かなりスリリングな演奏を繰り広げる。そして何よりもオピッツの緩徐楽章の歌い方が絶品だ。彼によってリズムの柱は一本で揺ぎ無く立つ中でどれだけ自由に泳げるかがわかった。つまりぎりぎりのラインで音楽的速度法、つまりアゴーギクをすること、これが音楽には自然なものであり、そうすることによってより魅力的になる。つまり一言で言うならばレーゼルは美音追求には妥協を許さないがその分音楽全体がアカデミックな方向に向かいがちなのに対してオピッツは決められた規則的束縛の中でどれだけのことができるか、つまり自らの感情によって音楽を紡ぎ、それでいて柱は崩さない、まさにこれがドイツ正統ではなかったかと思うのである。このCDでは何より3番の協奏曲がベストで特に2楽章におけるオピッツの語り口は絶品他ならない。
ブラームス:ピアノ協奏曲全集
ソロ全集の続編として、オピッツがデイヴィス指揮名門バイエルン放送交響楽団のサポートを得て、全ピアノ協奏曲の登場だが、ソロの時よりもさらに味わい深い演奏を披露してくれていて、これまた、彼の代表盤になるに違いない。ことに、2番の協奏曲では、古くはバックハウス、アラウ等、最近ではポリーニ、ツィメルマン等数多くの名盤がある中で、このオピッツ盤はその中でもひと際輝く、名盤中の名盤とも言える内容で、ブラームス=オピッツという図式が完全に確立されたと言える。
Complete Solo Piano Music
ゲルハルト・オピッツ(Gerhard Oppitz)によるブラ−ムスのピアノ独奏作品全集。録音は1989年に集中して行われている。
ブラームスの作曲家としての作品群はピアノ独奏曲、それも古典的な枠組みを持ったソナタから始まったといっても過言ではない。しかしソナタの作曲をわずか3年ほどで中止してしまう。交響曲の世界であれほどベートーヴェンの後継にこだわったブラームスがなぜ?と思うが、それはやはり自分の中から湧き出てくる音楽のインスピレーションがどうもこのジャンルに合致しなかったからではないだろうか。実際自分の楽想を楽曲にまとめる段階で、それに相応しい楽器や編成に随分悩んだらしく、交響曲が協奏曲になったり、協奏曲の独奏楽器が2個になったり、「クラリネット又はヴィオラソナタ」まで出現するが、ピアノソナタへの「見切り」は相当早かった。そしてその後は変奏曲と小品の世界へと移る。だからブラームスのオリジナルのピアノ独奏曲というのはそう多くはない。軸となるのは「変奏曲」と晩年の枯淡を示す小品だと思う。
オピッツの演奏は技巧が安定していて、風格豊かにブラームスを堂々と奏でている。ソナタでも恰幅のよい和音が十全に響いて心地よい。変奏曲などでは、もっと色鮮やかな面があってもいいと思うが、愚直といっては悪いが、素直でまじめにまっすぐにやり遂げている。私自身の好みから行くとやや違った肌合いを感じる部分もあるが、これはこれで、間違いなくドイツ音楽の本流を表現した肌身に感じる演奏なのだと思う。例えば3つの間奏曲の落ち着いた風情で奏でられる郷愁は、渋いロマンを湛えていて美しい。非常に説得力のある名演だ。
ただ、独奏曲全集と銘打ってあるが、ショパン、ウェーバー、バッハの主題に基づいた練習曲集やハンガリー舞曲集などが収録されておらず、その点がちょっと残念である。できれば可能な形で残りの楽曲を録音してほしいところだ。
バッハ:2台、3台、4台のピアノのための協奏曲集
エッシェンバッハが仲間たちと録音したバッハのピアノ協奏曲集。録音の緊張感よりむしろ演奏を楽しんでいるのが聴いて分かる1枚だと思います。もともとはチェンバロ協奏曲だが、ピアノにしても違和感がないのもいいですね!
ブラームス:ソロ・ピアノ作品全集
ブラームスのピアノ独奏曲を聴きたくてあれこれレコード店を廻ったが、これといってめぼしいものが無い。諦めかけていた時にこのアルバムを見つけて購入した。ブラームスのピアノ独奏曲を全曲聴けるのはもちろんの事、演奏スタイルはテンポも強弱も適切で、変に演奏家の色が付いていないところが気に入った。もっと変化のあるブラームスを弾くピアニストもいるみたいだが、ブラームス自身が語りかけてくれるオピッツのピアノは素晴らしい。自分好みのブラームスを探す前に、まずこのアルバムを押さえておきたい。最新録音で全曲聴けるのはこの曲集だけだし、定番に成っていくと思う。ブラームス好きの自分の評価は☆五つだが、ブラームスを聴いていない人にも☆四つには感じられると思う。良盤です。