消えた少年 (ハヤカワ文庫JA)
「ススキノ探偵シリーズ」の第2弾『バーにかかってきた電話』において、探偵の《俺》がススキノで「艶々と光る豊かな黒い髪が長く伸び、整った、透き通るような顔の中で生き生きと動く瞳が印象的だった」(前掲書p.359)女性を、3人のチンピラから救う場面がある。2作目におけるプロットでは、一見して何の脈絡もないシーンであるのだけれど、《俺》に救われたこの女性中学国語教師が第3作目『消えた少年』の依頼者となって物語に絡んでくる訳だ。こうした一連の流れも、正直、東直己さんはうまいな、と私は思う。
東さんは、ススキノという東京以北最大の歓楽街の空気と、折々の世相の状況をうまく噛み合わせて、シリーズ化した作品を生み出している。第1作目では「デートクラブ」、第2作目では「地上げ」といったことを“事件”の背景として、リアリティのある複雑な“人間模様”を生々しく描いてきている。ここで、私が感心するのは、多少、デフォルメされているが、登場人物のキャラクターの彫塑がよく出来ている、ということであろうか。この感懐は、東さんの“人間観察”の賜物、と言ってしまえば身も蓋もないのだけれども…。
東さんは、北海道大学の哲学科を中退し、その後、土木作業員をはじめ、様々な職に関わってきたらしい。多彩な職業体験自体、“人間観察”には「もってこい」なのだが、それはそうとして、私は、大学で哲学を専攻していたことも、小説を書く上で、多少影響を与えているのかな、と勝手に想像している。私の考えでは、「哲学」とはとどのつまり「認識論」であり、結局は「(人間の)存在論的解釈」に行き着く。東さんは、自覚的或いは無意識にしろ、存在論的人間観察を常日頃から行ってきていたのではないだろうか…。
熾火 (ハルキ文庫)
畝原シリーズにはいつも期待しているが、今回も面白かった。確かに、同シリーズを読んでいなければ読みにくいと思うのでファン向けではあります。内容的には重く苦しいが、それが「人間の闇」を率直に抉っている感じであった。当り障りのないそこそこ面白い小説ならどこにでもある。たまにはこの種の作品にも親しみたい。先にも書いたが、本作は畝原シリーズを読んでから読むことを是非お薦めしたい。私は素直に面白かったが・・・。
探偵はBARにいる 【DVD3枚組】「探偵はここにいる! ボーナスパック」
初日に観に行きました。
長年、大泉さんが憧れていた、荒々しい男性像に近い探偵さんではないでしょうか?
「意外と動けてる!」激しい乱闘シーン。
「おいおい、大丈夫?」シリアスな演技。
「逆に大泉さん、羨ましい」相棒との関係。
「こっちが照れるわ」お色気シーン。
「現場は、めちゃくちゃ楽しそう」ファンの妄想。
大泉さんには悪いけど、龍平くんが格好良すぎて、
映画館では圧倒されながら、
家では「きゃ〜」とか吠えながら観ました。
(なんとかして付き合えないかな)
どうでしょう藩士としての親心目線、贔屓目線を差し引いても
た・の・し・め・ま・す!!!
おまけDVDも、本編並みに
た・の・し・め・ま・す!!!
お買い得!
駆けてきた少女―ススキノ探偵シリーズ (ハヤカワ文庫JA)
ススキノ探偵シリーズの長編第6作目の本作品は、2004年発表。
前作「探偵は吹雪の果てに」では、ススキノを飛び出して、別の町で奔走する<俺>の姿が描かれていましたが、本作品では、ススキノを中心とした活躍を描いており、その点ではシリーズ本来の路線に戻ったと言えましょう。
本書を読み始めた時、これまで冒頭に掲載されていた<ススキノの地図>がないのに気づきました。
シリーズを読み継いできている読者なら、そんなことは頭に入っているということなのでしょうが、ちょっと寂しい気がします。
また、本作品のストーリー、どうも焦点が定まらない印象があります。
これまでも、主軸となるストーリーに付随して、ススキノに棲む人々とのエピソードが挟まれるという手法でしたが、今回は、その「主軸となるストーリー」がはっきりせず、<俺>の視線がいろいろな方角に向いてしまっています。
そもそも冒頭からして、<俺>にけがを負わせた人物を探るという目的と、霊能力者の知り合いからの依頼で、ある女性の素性を探るという目的のふたつが存在している…。
この点に関しては、巻末解説にあるとおり、本作品は別のシリーズの2作品とリンクしているようなのです。
つまり、その2作品のストーリーと併せて一本の完成品として書かれているとのことで、この作品だけを読んでいると、ストーリーが広がり過ぎてしまった印象がありました。
本シリーズだけしか読んでいない人間にとっては、面白さを十分に味わえないのかもしれません…。