本書はNHK-TVでシリーズドラマ「人間模様」の枠で放送された「夢千代日記（全5話）」「続・夢千代日記（全5話）」「新・夢千代日記（全10話）」の全20話のストーリ・テキストです。私はテレビでの本放送・再放送、ビデオ、DVD等でこれまでに全話5回程度は観たことがあります。
読んでみて分かるのは最初の（正編）夢千代日記のテキストが実際の放送のセリフや場面の注釈とそれなりに違いがあるということ。この正編の5話には放送の為の方言指導などが入っていないであろう事もあって、言い回しが不自然に感じるほど放送と本書で違っています。そして不思議なのはよく取り沙汰される風俗店の名称が注釈抜きでいきなりソープランドに書き換えられていることです。当時はまだ中東より東、小アジアとさえ呼ばれた地域のとある国の名が使われていたはずで、私もそこはかなりはっきり覚えています。もし著者のオリジナルを尊重するならここは注釈を入れて元のままにすべきでしょうし、もし著者の早坂氏自身が改定したならそのことを注釈しておく方が親切でしょう。そうした注釈が無いので、早坂氏のテキストを知る為には使えない本になったと考えます。もし放送された現実の映像作品をオリジナルと見なすなら、私が知る範囲では新潮文庫版（現在品切れで再版されてない）のほうが映像作品のそれとしてオリジナルに近づけるよう修正されているといえるかと思います。
続・新・夢千代日記のテキスト（15話分）は、放送用の方言指導が反映しているように受け取れる完成度になっているとおもいます。また登場人物の性格や立ち居振る舞いが既に明確なイメージになっている分、放送されたセリフや場面設定との乖離が少ないと感じました。
既に何度も映像作品として観て大体話の筋が分かっている人は、作品を思い出す為の手がかりとして充分使えるかもしれません。しかし、まだ映像作品としての本作品に触れたことのない人には、原作としてもシナリオとしても、おすすめする気にはなれません。