事実の記録としておすすめ度
★★★★☆
20年位前に、私の好きな小説にこの小説を読む場面があり、どんな本だろうと気になって読みました。「いのちの初夜」というロマンチックなタイトルは、後から川端康成が付けたものだそうで、内容はそぐわないほど、淡々とした現実です。
ハンセン病者である作者が、療養施設に入った、第一日目の記録。
昭和10年代の施設の様子が描かれている点で、貴重な記録だと思います。現在の施設は、驚くほど綺麗だと、見学に行った友達が言っていましたが、中身はどれぐらい変わったのか?
ハンセン病者に対する差別は、法律上は禁止されましたが、臭いものには蓋をしろ的に、事実も隠蔽されていないでしょうか。「砂の器」の設定がドラマでは変えられて、ハンセン病患者は登場しませんでした。
口にしないことが差別していないことには、つながらないと思います。
どんな病気で、なぜ恐れられていたのか、20年前調べようとした時とほとんど変わらず、一般には情報が入りにくいのが現実です。
是非、現在も療養所にいらっしゃる方の中から、真実の記録を紡ぎ出す人が出て欲しいと思います。
いのち
おすすめ度 ★★★★★
21世紀になった現在でもハンセン病に対する人々の理解力は低く、様々な偏見や差別が消えていない。筆者が生きた昭和10年代は今とは比べ物にならないほどであったであろう。何よりも、当時はハンセン病は感知不能の不治の病であった。「いのちの初夜」では、ハンセン病と診断され、療養所へ行くことになった青年の生きることへの苦悩と将来への絶望、そしていのちへの執着などが描かれている。筆者自身がハンセン病患者であり、筆者でなければ書くことができなかった文章である。「いのちの初夜」の中で『生命です。生命そのもの、いのちそのものなんです』という一文が重たく胸に響いた。