監督のシドニー・ポラックは背景に社会的情勢を絡ませた壮大なラブストーリーを撮る名手で、そのスタイルが今作でも貫かれています。国連演説中での要人暗殺となれば本部内での撮影が実現しなければリアリティある映像が撮れなかったでしょう。その貴重な映像を観るだけでも価値があります。主演のニコール・キッドマンの透き通る様なCoolな美しさも毅然とした表情も良かったけれど、やはりショーン・ペンの素晴らしさに尽きます。ニコールを引き立てるべく安定した演技を見せており、セリフのない場面でも魅せる“目”で表現された憂いや愛情深い優しさ…この人はその場にいるだけで存在感があり、限りない感情を漂わせる事の出来る希有な俳優だ。ただ現れただけで背中に背負ったものを滲ませ、その人物の人生を感じさせる演技力には毎度ながら感動させられる。 監督はこの映画は“癒し”をテーマにしていると語っていたが、混沌とした世界情勢の中で救済を願う人々の心情を演じたニコール=シルヴィアの底無しの寂喪感や哀しみ、それを乗り越えたラストの晴れ晴れとした笑顔には確かにその意向が託されていたと思う。テーマは重いけれど心に残る映画だ。
架空である意味おすすめ度
★★★★☆
愛するものを失ったという共通点を持つトビンとシルビア。第一印象最悪の二人であるが、事件の影が濃くなるに従い、その距離を近づけていく。ここで、安っぽい恋愛などを盛り込まずに、スリラー一本で話の筋を通したことで、上質な作品に仕上がったと思う。
架空の国「マトボ」、架空の言語「クー」を用いて作り出されたこの作品は、アフリカブームに乗りつつも、今の映画界における「アフリカの悲劇の商品化」とは一線を画す。アフリカの歴史をかいつまんだヒーローフィクションが世に出ないための警鐘としてもとても重要だと思う。というのも、映画界のなかでは度々そのようなことが行われてきているからだ。
ベトナム戦争や、第二次世界大戦後、史実を伝えようとする映画に人々が飽き始めたころ、ヒーローが活躍する戦争フィクション映画がつくられた。いい映画もたくさんあるが、「ディアハンター」などのように、歴史認識の繊細さにかけるものも沢山世に出ている。「ザ・インタープリター」は、過去の戦争フィクションのように、実際に存在する国や言語の使用して「本物っぽくかっこよく」することを避け、堂々とエンターテイメントとして勝負をかけているといえよう。そして、スリラーとして見ごたえのある作品に仕上げられているのだ。
国連内部での撮影が始めて認められた映画として、話題性も抜群。見て損なしの作品だ。編集でカットされたシーンと別のエンディングは、個人的に大した事ないと思うので、DVDとして手元に置く価値という点ではちょっと疑問に残るが、監督のインタビューなども興味深いので、作品の細部に興味のある人にはお勧めである。
国連内部ってああなっているのねおすすめ度
★★★☆☆
国連の内部を映像化したのははじめてというのでこの映画観ました。
コワモテの黒人のおっさんがたくさん出てくる話ですが、国連本部、アフリカ、テロリスト、同時通訳とワールドワイドな話になっているわりには落ちがありきたりな印象。
ショーン・ペンとニコールは、ケビン・コスナーとホイットニーの「ボディーガード」を彷彿とさせます。
映画史上最も美しいニコールに会える。
おすすめ度 ★★★★☆
映画はアフリカ・マトボ共和国(架空)から始まります。『ブラッド・ダイヤモンド』で見た少年兵がここでも登場し、
サッカー場の廃墟で手作りのボールで遊んでいる少年達が、シルビア(ニコール・キッドマン)の兄サイモンと
恋人を射殺するシーンなのですが、流石にショッキング。
そして一方、N.Y国連本部で同時通訳を務めるシルビア(ニコール・キッドマン)は、ある日偶然
マトボ大統領のズワー二暗殺を知ってしまう。知らせを受けた当局は、シークレット・サービスのトビン・ケラー(ショーン・ペン)を
担当に差し向ける。しかし、トビンは彼女の言葉に疑問を感じ、彼女の怪しげな行動を探るのだった・・・。
妻を交通事故で失ったばかりのシークレット・サービスを、ショーン・ペンが熱演している。
酔った勢いでバーから自宅に電話するケビン。誰も居ないはずの自宅。受話器から聞こえてくるのは、生前の妻の留守を告げる声。
そのダイヤルに2度もコールするケビンの悲痛な表情が胸に迫る。ミスティック・リバーを彷彿とさせる渋い演技。
あのハスキーな声と相まって、アルパチーノ2世と言った感もある。
あくまでサスペンスなので、ストーリーのネタバレを避けたいが、ラストのセントラルパークのシークエンスで、
トビンとシルビアの別れのシーンが良い。僅かな希望を残しつつアメリカを去るニコールの後姿に、
静かにアフリカン・ミュージックがフェイド・インすると、カメラはユックリとパーンして、N.Yの摩天楼郡をなめて行く。
ワイド画面に白く輝く国連本部ビルが映し出される。しかし、その先には、過ってそこにあった二棟の巨大なビルは無い・・・。
銃声が響き、何も聞こえなかった。
だが、人間の言葉は他の物音とは違っていた。
それは、他の物音に勝る力を持っていた。
叫び声ではなく、小さな声だとしても。
かすかな声でも、銃声に勝るのだ。
それが、真実を語る時は・・・。
この言葉は、映画のラスト近くに出てくるある書物の一節なのだが、この数行に、『シドニー・ポラック』監督の伝えたかった
メッセージと、ここ数年制作された幾つもの映画のテーマがクロスしている。主人公のニコール演じるシルビアの職業は
タイトル通りインタープリター(=同時通訳)なのだが、彼女とシークレット・サービスのケラー(ショーン・ペン)が、
このテーマを2時間かけて翻訳してくれます。ちょっと複雑で難解な点もありますが、DVDの特性を活かしつつ、
じっくりと鑑賞頂きたいものです。『ミュンヘン』 『バベル』 『ブラッド・ダイヤモンド』を観て感動された貴方に、ぜひぜひのお薦めの一本。
P.S
DVD特典で、シドニー・ポラック監督がワイドスクリーンとパーン・カットとの違いを熱く語っていますが、一見の価値ありです。
概要
ニコール・キッドマン、ショーン・ペンという2大実力スターが共演した社会派サスペンス。ニコールが演じるシルヴィアは、国連に勤務する同時通訳で、アフリカのクー語(架空の言語)を担当する。そのクー語が使われる小国マトボ(こちらも架空)の大統領が国連で演説することになるのだが、シルヴィアは大統領が暗殺するという情報を聞いてしまう。シークレット・サービスのトビンがシルヴィアを護衛するが、彼女も怪しげな行動をとる。
マトボの国情には、アフリカ各国の悲惨な現状が凝縮されており、突然の激しいアクション場面とともに、随所で背筋を凍らせる。全体の展開はやや複雑で不可解な点もあるが、シルヴィアの素性が明らかになるにつれ、彼女とトビンが悲痛な心を慰め合う物語も生まれ、感情移入しやすくなっていく。それでいて、深いラブストーリーになだれ込まないのはリアル。主演2人は、いつもながらの名演(とくにクライマックスのペンの切ない表情は絶品!)だが、最も印象に残るのは、ニューヨークの国連本部内の映像だろう。ドラマに真実味を与えるのはもちろん、劇映画としては初めて撮影が許可されたという点でも、一見の価値はある。(斉藤博昭)