雄大な自然と登場人物の個性を存分に描くカメラワークといい、輻輳するストリー展開といい、変わらぬ新鮮さを感ずる。テレビが大型化し、プロジェクタも普及した今日、是非みたい作品だ。
圧倒的な映像おすすめ度
★★★★★
画面の美しさ、壮大さはただ事ではない。いくらロケハンを十分にして絶好のロケーションを見つけても、凡庸な監督であればここまでの画面をフィルムの収めることは出来まい。静かな、そして灼熱の砂漠の場面、対照的にダイナミックなアカバ襲撃シーンなど観ている者を画面に惹きつける映像において、この映画に勝るものはない。
ただロレンスの人物像はやや神秘的で透明すぎると思う、もともと実在の彼は謎が多く、ピーター・オトゥールというエキセントリックな容姿の俳優を持ってきたことでなおさら、その実像は不明瞭になってしまっていることは否めないが、そこがリーンの狙いかもしれない。
最初に映画館でリバイバル上映を観た時には気づかなかったが、ロレンスの葬儀であまり面識がないロレンスを称えていた人物は、ボロボロの格好をして戻ってきたロレンスを張り倒す軍人だったことがDVDを観て判った。彼の業績を褒め称えているのが、うわべの格好だけで人を判断するような人間であったことは皮肉的で、おそらくロレンスの真の理解者など一人もいなかったであろうことを言いたかったのだと思う。
砂漠の砂の一粒一粒にロレンスの苦悩が反射する雄大詩篇!
おすすめ度 ★★★★☆
D・リーンはメロドラマにこそ真骨頂がある。従って背景の壮大さはメロドラマを引き立たせるものに過ぎない。特に大きな対立軸がある場合、例えば国家間、時代の潮目等が絡まるとよりメロドラマが引き立つのである。
この映画、壮大な背景描写はお見事。砂漠の幻想的表現は言うまでも無く、アカバ奇襲のダイナミズムに至ってはただ事ではない。
しかし、メロドラマが欠如しているのだ。またそれを演じる主人公もいない。まさにのっぺらぼうな作品なのである。
D・リーンは失敗作に終わるだろう事は、十分に自覚していた。従って積極的にこの作品を失敗作として露呈させることに心血を注いだのだ。失敗作とはそれを自覚しうる作家のみが正に失敗作として顕在化せしめる時に始めて可能になる、倒錯劇である。これは並みの作家では成しえることなど到底出来ない代物なのである。ロレンスの倒錯性とは、従ってこの失敗作の具現化された個性なのだ。
特に後半部の軍用列車の脱線転覆の堂々たる未完成ぶりはどうだ!本来ならば、クライマックスともいえる見せ場に出来たシーンを安易な編集で繋げているこの居直りが凄い!しかもこの後半に、山岳地帯に雪が舞うという、目を疑うシーンも出現する。この砂漠と蜃気楼の作品にである。しかしこの場面は、ロレンスの心象を描いていて秀逸である。と同時に次回作の『ドクトル・ジバゴ』を予告しているかのような印象を受ける。『ドクトル・ジバゴ』は既に始まっているのだ。
概要
「ロレンス」の出現は20世紀の事件であった。第一次世界大戦下、ドイツと手を組んだトルコ帝国の圧政下にあったアラブの独立に燃えたT.E.ロレンスは、独自のゲリラ隊を指揮し、アラブの救世主と称えられるようになる。しかし、やがて英国軍上層部に利用されていたことを知る。そして、味方と思っていたアラブ人たちもまた青い目、白い肌のロレンスを裏切っていくのだった…。
本作は、名匠デビット・リーンが息をのむ映像美と雄大な音楽で、実在のイギリス人冒険家ロレンスの波乱に富んだ半生を描き、20世紀映画の金字塔といわれている。62年のアカデミー賞では主要7部門を独占した。ロレンスにピーター・オトゥールが扮し、一世一代の当たり役となったのをはじめ、オマー・シャリフ、アンソニー・クイン、アレック・ギネスら出演陣も豪華。70ミリの画面に現れる砂漠の美しさと、真っ白いアラブの衣装をはためかせながら砂漠に立つロレンスの雄姿に圧倒される。金髪、碧眼、アングロサクソン特有の細身で長身のピーター・オトゥールは、紛れもなくロレンスそのものであった。(松本肇子)