Heartbreak [2枚組CD]
スコットランドはエディンバラ出身のバート・ヤンシュは、1943年生まれというからジョージ・ハリソンなどと同じ歳だ。1963年、20歳のときにロンドンに出て来ると、瞬く間に当時興隆していたフォーク・リバイバルの中心的な存在のひとりになる。1965年のデビュー・ソロ・アルバム以来、ペンタングルのメンバーとして活動していた時期(1968年〜1973年)も併行してソロ活動を続けていた。その間ずっとロンドンを本拠に、言わば気心の知れたメンバーたちと仕事をして来ていたが、ペンタングルの活動が一段落してからは、米国でソロ・アルバム2枚を制作したり、2年ほど音楽業界を離れて家族とともに田舎に移って農耕生活をしたり、今度は家族と離れて自分のバンド=Conundrumを結成し長期のワールドツアーに出かけたりと、「腰の落ち着かない」時期が続く。年齢で言えば30代の半ば。自分の人生に疑問を持ち、あても無く何かを求めて彷徨う。オトコならその気持ちも分ろうと言うものだ!?
そのワールドツアーの終わり、バンドを解散したヤンシュは一人米国に残り、英国出身だがロス・アンジェルスを本拠にエルヴィス・プレスリー、エリック・クラプトン、エミルー・ハリスなどのセッション・マンとして活躍していたアルバート・リーと一緒に制作したのが、このアルバムだ。前述の米国制作アルバムは寄せ集めのメンバーによるセッション・レコーディングだったが、本作はバンド・メンバーを固定してじっくりと制作され、アルバムとしての統一感がある。1曲だけヴォーカルで付き合っているジェニファー・ウォーンズの声にジャッキー・マクシーの繊細な詩情は無いが、その野性の花のような生命感はこのアルバムの性格を象徴するかのようだ。かつての「体臭の強さ」も魅力的だったが、リズム・セクションが米国人だからか、録音がクリアーなためか、あるいは、契約アーチストとなったヤマハのギターを本作から使用しているためか、いままでの作品よりもスッキリとした印象がある。何より放浪時代が終わり、腰を落ち着けて、良いところも悪いところもひっくるめて「これが自分なのだ」と見定めたような充実感、吹っ切れた感じこそが、その理由なのかもしれない。
バート・ヤンシュは2011年に亡くなったが、長いキャリアで多くの名作を残した。これも代表盤のひとつとして、ぜひ耳にして欲しいアルバムだと思う。30代のアイデンティティー・クライシスを乗り越えたオトコの心に沁みる名盤。
そのワールドツアーの終わり、バンドを解散したヤンシュは一人米国に残り、英国出身だがロス・アンジェルスを本拠にエルヴィス・プレスリー、エリック・クラプトン、エミルー・ハリスなどのセッション・マンとして活躍していたアルバート・リーと一緒に制作したのが、このアルバムだ。前述の米国制作アルバムは寄せ集めのメンバーによるセッション・レコーディングだったが、本作はバンド・メンバーを固定してじっくりと制作され、アルバムとしての統一感がある。1曲だけヴォーカルで付き合っているジェニファー・ウォーンズの声にジャッキー・マクシーの繊細な詩情は無いが、その野性の花のような生命感はこのアルバムの性格を象徴するかのようだ。かつての「体臭の強さ」も魅力的だったが、リズム・セクションが米国人だからか、録音がクリアーなためか、あるいは、契約アーチストとなったヤマハのギターを本作から使用しているためか、いままでの作品よりもスッキリとした印象がある。何より放浪時代が終わり、腰を落ち着けて、良いところも悪いところもひっくるめて「これが自分なのだ」と見定めたような充実感、吹っ切れた感じこそが、その理由なのかもしれない。
バート・ヤンシュは2011年に亡くなったが、長いキャリアで多くの名作を残した。これも代表盤のひとつとして、ぜひ耳にして欲しいアルバムだと思う。30代のアイデンティティー・クライシスを乗り越えたオトコの心に沁みる名盤。