友よ、静かに瞑れ [DVD]
この時代の「角川映画」って評価され難い作品が多かったように思うし本作もレビューを書き難い作品です。全体に叙事的で無味乾燥なシーンが続き、俳優の台詞は滑舌が悪くボソボソ喋っていてよく聞き取れない。読み進むための重要な台詞が少ないので理解し難いのですが、坂口隆一がナイフを忍ばせて敵地の乗り込んだ理由が徐々に明かされるに至り、新藤剛は親友に良き死に場所を与える事、気の弱い息子に父親の死に様を見せる事で男として覚醒させる事に腐心するストーリーでしょうか。テーマ曲に独特の雰囲気があって一度聞くと結構耳に残ります。またシーン毎にアレンジを変えたり、ワンシーンのために書き起こした曲もあったりで音楽は贅沢な使い方をしています。崔洋一監督は細部にこだわった演出をする方で、主人公がタコスを食べるシーンや下山建設の事務所の何気ない書類の束、繰り返しさりげなく出てくるコカコーラの看板など何度も観返してしまいたくなる様な味が点在しています。象徴的に描かれている主人公の乗るレンタカーがR30型スカイライン1800TIなのがシブい。高畠部長のアメ車(リンカーンでしょうか)も高畠の性格付けがよく分かる選択です。画質が粗くモノトーンの色調で薄暗いシーンが多くクローズアップがほとんどないのでVHS時代には観賞し辛い作品でしたが、DVD(BL)になって見返すと俳優の目線や僅かな首の動きなどから判明した演出意図や新たな発見(フリーインの広場の壁が壁画だった)があったり、劇場公開時でないと判然としなかった細部が分かってまた見返したくなる作品です。
ちなみに同じく丸山昇一氏脚本の「アホーマンス」も同時期の公開ですが、角川のプログラムピクチャーでこのクオリティーの作品を作られたら松田優作の完敗でしょうね。
ちなみに同じく丸山昇一氏脚本の「アホーマンス」も同時期の公開ですが、角川のプログラムピクチャーでこのクオリティーの作品を作られたら松田優作の完敗でしょうね。
望郷の道〈上〉 (幻冬舎文庫)
北方謙三作品は数多くありますが、中国古典を基にした作品以外はどこか少し気取りと云うかポーズ臭がときたま気になる場合がありましたが、これは違う。自身の曽祖父をモデルにして書かれたらしいですが、明治時代を真摯にがむしゃらに生き抜いた主人公の人間像が温かみや弱さもうまく表現されていて北方謙三作品中でも群を抜く傑作です。