瑠璃でもなく、玻璃でもなく (集英社文庫)
結婚についての思いが、色々な立場の人から語られている。
結婚してすぐに専業主婦になった人。
不倫をしている人。
合コンに精を出し念願叶って目標の27歳で結婚を決めた人。
離婚して、仕事に生き甲斐を見出している人。
ずっと独身を通してきたキャリアウーマン。
それぞれの立場ゆえの複雑な思いが、
要所要所のセリフに散りばめられている。
そのどれもが、自分がその立場であったらと考えた時に
納得出来るものである事がわかる。
友章という男性が出てくる。
主人公の美月も恵利子も、彼の優しさとアプローチに
徐々に気持ちが傾き、彼との将来を一瞬頭に描いたりする。
彼は優しいし思いやりもあるし、
それは決して見せかけだけのものではない。
人を安心させる雰囲気も持っているし性格も良い。
困った時には的確な助言もしてくれる。
しかし、まだ今はいいと思っているのか
元々がそうなのかわからないが、
要するに彼は、悪い人ではないのだが
『そういう人ではなかった』という事である。
彼みたいな人を『そういう人ではない』と見分ける事は、
女にとって永遠の課題なのかもしれない。
孤独で優しい夜 (集英社文庫)
自分の親友が、好きだった彼と結婚した。
でも、実は、その彼も自分のことが好きだった。
キューピッドとして間に入ってくれた親友に、2人ともだまされていただけだった・・。
そこから、主人公が、彼を奪い取ろうとする復讐劇が始まります・・。
でも・・・。いつまでもはっきりしない彼。
妻のことも大切にし、家庭は守ろうとする。
上司に仲人をしてもらった以上、簡単に別れることもできない。
結局、ありきたりの不倫関係を続ける二人ですが、その結末は・・・??
「瑠璃でもなく、玻璃でもなく・・」もそうでしたが、この人、ホントに不倫している女性の心理描写が巧みですね。
たぶんご本人も、相当経験があるんでしょうね。
私自身は経験がないので、ピッタリとは重ならないけれど、それでも「どうやっても、自分のものにはならない彼」「一人で過ごす時間の切なさ」・・・みたいな悶々とした描写には、うなずくことばかりで。
それにしても「男の狡さ」には毎回辟易しますね。
本当に、不倫している男にとって、女って、都合の良い存在でしかないのね・・と、悲しいけれど思ってしまいます。
最後に、いつまでもはっきりしない彼に対して、粧子が今まで我慢していたことをすべて吐き出すセリフがあるのですが、それがすごく読んでいて清々しく、気持ち良かったです。
なかなか不倫相手に対して、こんなに論理的に相手を言い負かすことはできないと思うので・・。
唯川さんの初期の小説全般に言えることですが、色々あったわりに結末はすべてうまく収まる・・・ってパターンが多く、こちらも例にもれずその一つで、読者側としては少し物足りない感はありました。
でも、最後に唯川さん自身の「あとがき」があり、ご本人の思う「不倫」についてご自分の言葉で話をされているのが好感持てました。
テティスの逆鱗
唯川恵の小説は好きでよく読んでいるが本書には恋愛などは出てこない。それなのになぜかすごく引き込まれて一気に読んでしまった。
4人の主人公がどんどん「いってはいけない方向にいっている」という切迫した感じが伝わるのだ。
整形をしたことがない人間にとって整形した感想というのは想像の範囲でしかないが、やはり自分の身体に故意にメスを入れるというのは何らかの影響を与えるのかも知れない。
そして欲しいものを買うかのごとくどんどん自分の身体を変えていった結果、「自分とは一体何者なのであろうか」というアイデンティティの崩壊が起こるのだろう。
きっと世の中には実際に本のような女性(さすがにここまで狂ってはいないだろうが)も多かれ少なかれいるんだろうなと思った。
普通に年を重ねて皺が増えても体重が増えてもそれって幸せなことなんだと確認させられる一冊である。
男性はともかく女性にはおもしろいと思う。
とける、とろける (新潮文庫)
唯川さんの短編はいつも読み終わったあと寒気が残ります。
人が心に秘めている狂気をストーリーに織り込んで表現するのが本当に上手です。
この小説は、いつもの短編小説に官能的な部分がプラスされている感じです。
そうすることで得体の知れない怖さがいっそう強まっていると思います。
さくさく読める軽い小説を探している方にはおすすめです!