ツェねずみ (フォア文庫)
この作品を初めて読んだのは小学校に上がる前だったと思う。19歳の今読み返すまで、ラストがどうであったかや、どんなあらすじだったかは覚えていなかった。ただ、性格の悪いねずみが出てきて、ハッピーエンドではなかったというのだけは覚えていた。とにかく深く印象に残り、もう一度読みたいと思い続けていた。今読み返してみて、リアルな残酷さに心が震えた。嫌われ者でもひとりではいたくない。とにかくだれとでもいいから交際していなければ寂しくてしかたない。多くの人間が持つそんな性質をツェに投影している。しかし嫌われる根本の原因を直さなければ寂しさしのぎに交際している相手とも、結局折り合いが悪くなってしまうのが世の常である。この物語は、その折り合いが悪くなった結果最悪の事態になったところで終幕している。子供向けの作品ならツェが改心してハッピーエンド…とマイルドな話に仕立てることも可能だったはずだが、そうしなかったことで妙にリアルで印象的な寓話になっている。性格のねじ曲がった人間はそう簡単に改心できるものではない。人間関係の荒波に揉まれにくい世代には、この皮肉はぴんとこないかもしれない。人間関係の複雑になる小学校中学年からがおもしろいかな。