トランス
学生時代、この本に出会い、書店で売っていたビデオテープにて「観劇」、ラストシーンでボロボロに泣きました。
生で観劇したかったですが、その機会には恵まれませんでした。知るのがちょっと遅かった。
あれから数十年、今現在そこまで切なく感じるかどうかは疑問、ですが、当時の鬱屈をすべて洗い流してくれたような強烈な体験は忘れられません。ストーリーは(第三舞台の他の作品と同じく)主題とはさほど関係がないのかも。
もやもやとした表現しにくい不安を抱えている方、それが自分の力ではどうにもならないという方、一読してみて損はないかと思います。
ところで手持ちのVHSテープに出演されている一人は松重豊さんです。
初めてこの俳優さんを知ったのが本作だったので、ドラマ等で活躍されている姿を見るたび『トランス』やそれを観た時代を思い出します。強烈な作品。
立川談志 ひとり会 落語ライブ '92~'93 DVD-BOX 第一期
落語のアンチイズムを痛感。談志こそ落語、落語こそ談志。以下、ネタばれあり。■田能久:阿波[徳島]の田能村の久兵衛を略して田能久。伊予[愛媛]から山を越え阿波まで戻る途中、やむなく鳥坂峠[愛媛]で宵越しをする事となり、人気のない山小屋を拝借していた所、眼光の鋭い主人らしき老人が戻り、自ら蟒蛇だと名乗るが、田能久の名前を狸と聞き違え、ならば物の怪同士、互いの弱点を言い合おうという話しとなり、後々、蟒蛇のみがバカをみる、という下げ。かつて、空海が四国中の狐を追い払い、狸王国を作るという話しがあって、佐伯部だとか裏にあって表はどうだとかって民俗学的な話しは脱線ネタなんですが。落語ってすげーな!■品川心中:品川の遊郭で花魁と成り行きで心中をすることになってしまった男の騒動を中心に。死と性と糞尿が、ドタバタと現実に青ざめ笑いの外にすっ飛ばされる。男の場当たりさ加減と、花魁の薄情ぶりを滑稽に描写しつつ、一人死に損ないの男の戻る先が、博打最中の親方の屋敷で、またひと騒動を起こす。文楽で心中ものが流行ってた江戸後期の作品で、【怨念】の描写が文楽ならば悲哀で、落語ならば嘲笑、つくづく、笑いってシャーマニックだなぁと。後半は花魁が比丘=尼になる展開、があるらしい。■らくだ:らくだと徒名される厄介者が長屋で死に、葬儀をするのしないだの、亡骸のカンカン踊りは有名ですが、通夜の酒席で酔狂な騒動はかなり壮絶な深みに嵌る。演者の力量が試されますよね。落語の酔狂は凄いわ。■芝浜:四十二両の金子の入った財布を芝浜[東京]で拾ってドンチャンやらかし目を覚ましたら、女房にあれは全部夢だ、といわれる。荘士の【胡蝶の夢】じゃないけど、大金を手中に入れたいという夢と、大酒喰らって夢うつつなんてものが、こぞって女房の夢の内に化かされ『無為自然』な心得というか、夫婦の人情機微を談志十八番の造作で堪能させてくれる。
ゴッドタン~マジ歌選手権~ [DVD]
キス我慢選手権といい、このマジ歌選手権といい、
ゴットタン主催の選手権は非常に各選手のレベルが高すぎる!
基本はただ単純に芸人がマジで歌を唄い、審査員を笑わさずに唄いきるということを目的としているのだが、審査員も僕ら視聴者もこれが笑わずにはいられない!
本人は本気になりカッコイイと思っているのだが、傍から見ると人が本気になる姿がこんなにもおもしろいのかと気づかされる。
また、芸人も本気で笑わそうとしてないからこれがまたナチュラルな大爆笑を誘う。次第に笑いのスパイラルが生まれる。
この企画を考えた方々には敬意を表する。
何度見ても笑えるので、是非DVDで持っておいても損は無い作品。
ハッシャ・バイ
著者の言葉で僕自身もまったく同じ信念をもっている点がある。それは、『物語の作劇法はあくまでもテーマをあぶりだす為の手段でしかなく、その時にとびきり有効な手立てを探すべきで、フォルムそのものの完成を目指した芸術のための芸術なんて犬に食われろ』という事だ。演劇・文学等のジャンルで、根拠と論理的一貫性を駆使した「リアリズム」の変革が60年代から80年代に開花したのはそのフォルムで、その時の「生」を描く事が困難になってしまったからだ。つまり「前衛(なんて陳腐な言葉だろう)」と称された著者も含め、「リアリズム」は作家や読者や観客にとって「リアル」ではなかった。だからこそ、著者らの手法は、ごく普通のこととして受け入れられた。その証として本作「ハッシャ・バイ」はの到達点は驚くほど高い。繰り返されるギャクの果てと客観の安定性をとことんまで逆転させた極北にあぶりだされる、痛切な痛みと天高く歌い上げる高らかな希望。その溢れんばかりのイメージの奔流は見事に構造化され、燦然と輝く。そして ”もう、今は終わってしまった時代なんだ”と巷で飽きる程繰り返されるテーマと著者は完全に一線を引く。(僕は思う。したり顔で”おわった”と冷笑するのなら、なぜお前はぬくぬくと生きているのだ?と。終わりを聞くのはもううんざりだ)『戯曲は演じるためのプラットフォーム。文学としての完成を目指すのは自分の仕事ではない』との著者のスタンスにも関わらず、皮肉な事に本作は凡百の純文学の完成度を遥かに凌駕し、希望の彼方へ向けて誇り高く立ち向かっている。
EGGS
エコーズ最後のオリジナルアルバム。
我が道をいく、と開き直ったかのような辻仁成の文学的世界を堪能できる。
デビュー作から「Good-bye Gentle land」までのUKっぽい音と、
知的で内省的な歌詞が好きだった人には特におすすめ。
「HURTS」「Dear Friend」のポップさや”バンドらしさ”への固執はもはやなく、
ジャンルを越えた表現者として活動することになる辻の、”その後”を予感させる作品だ。
ギター伊藤浩樹の体調不良により、一部サポートメンバーに頼らざるを得なかったのが残念
だが、 今川勉の緻密で乾いたドラムは健在。 全体的に非常に厚みのある音に仕上がっている。
洗練という点では、今までのベストか。
80年代のバンドブームに背を向け、地道な活動をストイックに続けてきた
「エコーズとしての辻仁成」のラストにふさわしい力作。