定本 宮本から君へ 1
講談社から全6巻で出た時に夢中になって読みました。まるで宮本がすぐ近くで生きている人間みたいに、愛おしくて手に負えなくてハラハラドキドキしながら読みましたよ。
今回の「定本」に入っているかどうか分からないけど、最後の新井英樹による書き殴りの後書きは余計に宮本に血肉を与えていて、この話が終わった後の宮本はどうしているだろう?靖子と子供と3人の生活は色んな波乱がありながらもなお続いているだろうかと、今でも時々気になるくらいです。
カッコ悪くても自分をとことん信じて自分をとことん愛して生きていく。そういう宮本の生き方は出来そうでなかなか自分には出来そうもありませんが、それでも自分はこの漫画のガムシャラさに人生のある局面でちょっとだけ救われながら、今日も生きています。この空のどこか(作中に出てくる飛鳥山公園の空は展望台がなくなって今やすっかり景色が変わってしまいましたが)で宮本が靖子と思春期を迎えた息子と一緒に今も全力疾走していることを祈っています。
LOVE (新潮文庫)
数年前、この作品が三島賞を獲得した時、とても嬉しかった。 当時は未読だったわけだがそれでも、古川日出男が大きな賞を取ったということは、日本小説界の歴史的事件だと思ったから。 やっと文庫化してくれた。 エンタメと純文学の間を軽々と行き来する彼はこれからも疾走感溢れる小説を書いてくれるだろう。 この小説は東京の数ヶ月を舞台に猫と、猫を数える人達と、その周辺の人達の中で起こる事件を描いた、著者曰く「巨大な短編」。 うん、直木賞にはカテゴライズされないね。 ただ、読んでるとアドレナリンが凄い出る。 ハリウッド映画みたいなビシッとしたエンディングなんてあるわけないと知ってるのに、次の展開が気になってしょうがない。 これからも一層の活躍を。そして、確か福島出身だったと思いますが、東北を勇気づけてください。
馬たちよ、それでも光は無垢で
福島出身の小説家が福島の被災地に行ってみた。そしたら、ショックで書けずにいたはずの小説がむこうから立ち上がってきてまた始まり始める新しい小説への第一歩か、これは。あるいは、いままでものしてきた作品と、作家としての人生が、歴史が、震災と原発の暴走を契機として支離滅裂ぎみに自らを問い直していた数ヶ月の体験と内面の描写か。何だかよくわからないのだが、著者のこれまでの作品が好きな人にはおそらく自己の言葉の経験値から感応するところがあれど、そうでない人にはかなりわけわかんないんですけどな一冊だろうと思われる。現地のルポルタージュとして読める部分もあるが、現実界から突如すっとんだりしてやや戸惑う。あの日から続く日々が文学にもたらした衝撃を、その混乱ぶりを愚直に抱えたまま表現したのだろう、か。ここから次にどんな小説が生長するんだろうかと、とりあえず期待はできるのだが、はたしてどうだろうか。
アラビアの夜の種族 (文芸シリーズ)
この本を私は一週間とかかわずに読み終わりました。長いといわれている物語ですが、たしかに背景としての描写などには必ずしも必要ではないような部分もありました。しかし、それでも、物語としてのテンポ(展開)はそれとは裏腹に飽きが来るものではない。それこそ、物語の登場人物としての、いわば物語の中の物語の聴き手である書家や奴隷のように、私はこの本に耽溺することになりました。ファンタジーを読んだことのない人は、読み始めはなにやら疑心を憶えるだろう。しかし、これをファンタジーそれ自体として認識してよんだなら、すぐに魅了されるでしょう。困難な描写を上手く創造をしながら読むのはなかなか大変だが、全ての流れを掴むことの面白さ、何がどう繋がるのか、さながら歴史としてのミステリーとファンタジーの絡み合いは絶妙です。 さらにいえば、世界史に対してのいくらかの知識があればなお面白く読めるであろう。
春の先の春へ 震災への鎮魂歌/古川日出男、宮澤賢治「春と修羅」をよむ (宮澤賢治ブックス01)(CDブック)
古川日出男の朗読は以前から聞いていたので、きっとこのCDは人を鈍器で殴るような荒々しさに満ちているのではないか、聞き終わってずたぼろの気持ちにさせられるのではないかと思いながら再生ボタンを押したのですが、そんなことはありませんでした。
まだ赤い傷に誠実により添って歌い希望の先を望もうとしている、そういう朗読だったとおもいます。
聞き終わって呆然とはしていますが、決して嫌な気持ちではありません。
痛みを正しく長い道程をとおって消すことを希求している、その透明なかなしみをそっと手渡されたのだと感じます。
このCDは、震災以前の朗読よりもずっと技巧を削ぎ落としているように聞こえます。
よくきくとテクニックはますます冴えているし、そもそも最初からガンガン攻めてくる朗読なのですが、テーマのために統制されていて、それをそれと意識しないで聞くことが出来ます。
「永別の朝」「無声慟哭」「報告」「青森挽歌」「春と修羅」というこの構成もすばらしい。
真ん中に挟まれたあるギミックを使って録られた「報告」がその鮮やかさを、聞き手に意識させてくれます。
タイトルに入った「春と修羅」は、何も見えない夜の底を目をカッとこじ開けて全力でひた走るような心地がして、この春にこそ聞いてほしいと思う朗読でした。