スプリット―存在をめぐるまなざし歌手と武術家と精神科医の出会い
鼎談をしている3人はいずれもボロボロで強く、また弱く生きてきたエピソードを話している。
とても丁寧な言葉を使い、また切実なので伝えたいことがじわりと体に浸透してくる感じがする。
それは、彼らの特異な体験を、読者に対して少しでも正確に伝わるよう苦心しているからだと思う。
ただ、わたしにとって残念なのは、一番興味を持った「体を割る」という言葉の説明が少し伝わりにくかったことだ。
しかし、それを差し引いても、この本の全編に渡って背後に漂っている、
暗くドロドロしたオーラを感じる価値は十二分にあると思う。
これは勇気を得ることのできる貴重な一冊だと思った。
ベスト・オブ・カルメン・マキ&OZ
日本のロックが拡散し始めた70年代前半、ジャニス・ジョプリンに触発されたカルメンマキはロックへと歩を進めた。そして結成されたのがこのカルメンマキ&OZだ。「ヘヴィーロックこそアート」と言われていた時代でもあり、春日博文のハデなG、川上シゲのブリブリしたBが、メリハリの効いたハードサウンドを創っていた。天才ドラマーと言われた古田宜司の“歌うドラム”もラッキー川崎のハモンドも存在していた。しかしそれらは「引立て役」でしかない。圧倒的な存在感とカリスマ性を持ったカルメンマキのVoが、このバンドの全てと言って良い。歌唱自体もそうだがスピリットにおいても、彼女を超える女性Voはそれ以降出現していない。「私は風」「空へ」「崩壊の前日」など、女性の視点から原石のようにゴツゴ!ツした心を歌い切る潔さは他の誰にも真似出来ない凄みがある。日本のロック史を語る時、絶対に外す事が出来ないバンドのひとつがマキオズである。
カルメン・マキ&OZ
ささやきのような柔らかな歌声から絶叫のシャウト。ドスのきいた重低音から天使のファルセット。ゆったりと歌い上げるバラードから疾走するスピード感。これほどまでに、変幻自在に、瞬時に切り替える力は日本の歌い手の中で随一だろう。「うまい」の一言につきる。
日本で聞ける重量級のロックの最高峰と思っていたが、2007年の横浜、ジャズプロムナードでは板橋文夫(pf)と太田恵資(vln)とのコラボレーションで初めてライブを見た。なんと、今度はジャズである。衰えることの無い歌唱力に精一杯の拍手を送った。
ROOTS MUSIC DVD COLLECTION VOL.4 カルメン・マキ
マキさんがバラエティ的に話したりしている映像はほとんど見かけません。ご自身でもおっしゃるとおり「TV嫌い」だからなのでしょう。ではなぜTVが嫌いなのでしょうか?この質問に対する答えの一つがこのDVD には在るように思われます。それは、あくまで勝手な仮説ですが、インタビューの受け答えが苦手ということです。このDVDをご覧頂くとよくご理解頂けると思うのですが、マキさんは、質問に対して愛想良くペラペラと話すタイプではないようです。言葉を選ぼうとする慎重な態度からか、どちらかといえば「口が重い」ようです。
まあマキさんでしたら「しゃべくりなんかで評判をとるくらいなら歌そのもので勝負でしょ?」とお考えになるのは当然に思われるのですが、このDVDもまさにそれを地で行っているようです。口の重さとは対照的(?)に、歌唱力は全く衰えを知らず、その歌うお姿には年齢を超越したシンガーとしての普遍的な「美」があります。
ご自身でも冒頭に「発展途上です」と言っておられますが、それは「進化」と言い換えてもよいのでは?現在も「進化」と続けていらっしゃるカルメン・マキさんの、これは「途中経過」の大変貴重な映像です。
FROM THE BOTTOM
前作「ペルソナ」ではマキさんの演劇性(寺山門下ですから)がものすごく感じられましたが、本作も気取ることなく、その延長上にあるように感じられました。単純に言えば「わが道を行く!」ということなのでしょうね。映画「探偵はBarにいる」での「時計を止めて」のような色っぽい曲が巷で話題になった(かな?)のに、本作はそんな事には意も介さず、マキさんの進化の過程が更なるものであることが実感されます。
まず「媚びない」が感じられるのが、2曲目「No Face, No Name, No Number」。どう聴いてみてもあの懐かしのサラマンドラ!時代的には濃厚すぎるのでは…など思ったりもするのですが、マキさんは一向に意に介していないようです。堂々としています。そうです、それでこそ、我らがQEEN、カルメン・マキ!などと拍手。
加えて意識されているのが、素晴らしきバックミュージシャン達への配慮。これはその曲ごとに感じて頂きたいのですが、マキさんの今回参加された方々への思い、いや感謝が至るところで感じられます。
出色はやはり「A bird and flower」でしょうか。YouTubeで映像も楽しめますが、マキさんの声「自身」の魅力が堪能できます。私はマキさんの声には魔力が宿っていると思っています。鋼のように強くピアノ線のようにしなやか、そう感じませんか?マキさんの声はどんなにシャウトしても声が裏返りません。日本人女性ボーカルでは類を見ない強靭なお声、と私は思っております。加えてこの曲の持つ幻想性!ジャズよりは日本っぽい。日本ものにしては融通無碍です。囚われがなく、まるで一つの詩のような抽象絵画です。この1曲だけでもこのCDは買う価値がある!と勝手に思ってしまいました。
そしてラストの「Nord 北へ〜」はマキさんの意気込み?「どこにも属さず 何にも縛られず 荒野に一人立つ 美しい野獣♪」うん、そうです、マキさんそのものが美しき野獣なのですよ!
このCDは軽いものが好きな人には向かないかもしれません。でも忘れかけた時代、あの前向きな濃厚な時代を求める人たちには是非お聴き頂きたい1枚であると思います。
なお本CDはすべてスタジオでの一発録音で再編集は無し、だそうです。すごい!!!