赤目四十八瀧心中未遂
「どんな人間にも本来、生死に意味も、価値もない。」
「偽りとは人が為すと書く。」
私小説家である作者が、表層的な道徳や価値観を徹底的に否定して生きている姿に凄みすら覚えた。どこか人恋しさの裏返しに写る太宰治の小説よりも、ずっと孤高な感を受ける私小説。車谷長吉は文学者としていろんな意味ですごいところにいるのではないかと思った。
しかしながら、他人との関係性から生ずる感情など捨てたはずの主人公がアヤちゃんとの最後の数日間の中で見せる感情のブレに、切なさが滲む。作者が捨てられない「人間であることの何か」がそこには明確にあった。
赤目四十八瀧心中未遂
最近、小説が読めない。「最初の3行」を読み進められる作品が少ない。
みな最初の1行で、嘘くさく感じられ、“本当のこと”の力強さや、のっぴきならない切迫感、
そこからくる文章の推進力が感じられない(それこそが「本」の生命線なのに)。
しかし『赤目』には、見事にそれらが備わっている。
話の内容は、関西の(というよりは人生の最果て)に住み、
来る日も来る日も、鶏の肉を串刺しにしている主人公の「尻の穴から油を流している」日常がつづられていく。
巧みな構成と文章力で、読者は一気に筆者の物語世界に引き込まれる。
作家の「どうしてもこれを書かないと次に行けない」という執念が、
すべての文字に浸透していて、ページから眼が離せない。
物語中盤から小説はサスペンス仕立てになり、話の行方が気にかかり、本を手放せなくなる。
圧巻は、すべてが終わってからの物語の収束の仕方だ。
あれほどあっさりラストが切り上げられた小説を、あまり知らない。
この小説は、荒戸源次郎(『チゴイネルワイゼン』!)によって映画化されたが、
この映像作品はまったくの愚作(多くの映画賞は獲得したが)で、原作の魅力に遠く及ばなかった。
*ポスターや映画パンフレットなどのグラフィックスは素晴らしかった。
映画「赤目四十八滝心中未遂」―江森康之写真集
江森康之は言う。「この写真集で自分はもう一つの『赤目四十八瀧心中未遂』を作り上げた」と。この若きカメラマンの処女作に、自分は静かに燃え続ける情熱を見た。蓮の花の陰影の見事さは一見の価値がある。この写真家には基礎もあり、理屈もある。そして彼は今、確かな手ごたえを感じているに違いない。内田裕也の血走った目、大楠道代の全てを見透かしたような目。江森康之によって撮られた役者の目に注目してほしい。将来、彼の名はより多くの人の知るところとなるであろう。
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社会の掃き溜めの巣のようなアパートで出会う人々や出来事
を通じて、机上の学問ではない実際の社会勉強が出来たのです。
その過程での物語。
そこのアパートは、なにか空気がよどんでいるようで、かつ、時間が止まっているようで、実は人間の根源がそこにはあるような気がするのです。それは「社会生活」をする上での社会的人間というのでしょうか、対人関係で生まれるふれあい、葛藤などとともに、個人の中での欲望が渦巻いた世界というべきかもしれません。
そこで、外からの「来客」たる主人公が社会勉強をしていく様を上手く描いていると思います。私の中では、最後の「合掌」は観るときの気分で意味合いが変わる。(映画の題名からして「未遂」ですかね)しかし、どちらとも取れますね。
最後に、主人公の男の視線が役の上で重要であり、しゃべり方は彼の投げやりな、立場を示していると思うのですが。どうなんでしょうかねえ。
寺島さんはときどき「どきっ」とするかわいい表情があります。それが演技なのか生い立ちゆえなのかはわかりません
赤目四十八瀧心中未遂
私は原作は読まず映画だけ観たくちなんですが、映画の内容以上にまず音楽に引き込まれました。テーマ曲がとにかく素晴らしい。映画の本質をよく理解されて作曲されていると思います。またギターの内橋和久さんの小曲なども秀逸です。
映画自体は非常に胸に迫る、感想を簡単に述べれないもので何度か観てから何れレビュー出来たらと思っています。