最近の邦画は佳作が多く見受けられますが、その中でも、久し振りに良い作品に出会ったと感じたのが、この「はさみ」でした。
　若い頃は誰もが社会に出てみると、どの世界を見ても既存の序列があり、上を見ると限りがなく、下を見ると自分の下には誰もいないことに気付き、自分
のちっぽけな存在を思い知らされます。
　劣等感に苛まれながらも何かを模索し、試行錯誤し、悩み抜くことが青春期に課せられた通過点なのかもしれません。

　この映画では、理容美容専門学校を舞台に社会の様々な不条理や家庭環境の波に翻弄される若者達の苦悩、そして、その苦悩を分かち合い技術指導
ばかりではなく生活指導も含めて共に泣き笑いしながら暖かく見守り励ます教師や事務スタッフの面々。それらを暖かく鳥瞰して描いたのがこの映画です。
これまで、黒子役に徹した裏方の教師や事務スタッフに焦点を当てた映画は少なかったように思います。

　話は変わりますが、ここ十数年、どこの理美容院でも過酷な業務から後継者難で存続の危機にあるということを聞くようになりました。
　そのようなこともあり、これまで、若い理容師さんが生き生きと頑張られている姿を見ると心の中で「頑張れ、頑張れ！」とエールを送り続けてきました。
　理美容院を経営する親は、可愛い子息が理容美容専門学校を卒業し晴れて国家試験に合格すると、敢えて他の理美容院で他人の冷や飯を食べさせ修
行させることにより、始めて一人前の理美容師として自宅の理美容院に迎え入れるのがこの業界の鉄則のようです。

　この映画でも、窪田正孝が他店で先輩のアドバイスを受け、顧客との触れ合いの中で、（自分は一人ぼっちじゃないんだ。自分を認めて必要としてくれる
人がいるんだ。自分からドアをノックしなければ道は開けないんだ。）と社会や家族の繋がりを認識し、変わって行く姿を見事に演じています。
　また、お笑いコンビ「大好物」のなんしぃ（奥村 有紀）が演ずる市子役の何とも暖かくほのぼのとした演技が、人生の応援歌としてのこの映画を盛り立てて
います。

　エンディングテーマ曲として流れる熊谷 知子の歌う「ふれる」も胸に迫るものがありますし、エンデング・ロールではエキストラ出演の窪田理容美容専門学
校の学生さんの真剣な表情や笑顔が素晴らしく思わずエールを送りたくなってしまうのです。
　多くの方にお勧めしたい映画の一つです。