作家・医師の久坂部羊氏が「麻酔医だった父が、
85歳で前立腺がんが見つかった。治療するより
自然に任せたいと、なにもしなかった。2年後、
病院に行く必要もなく在宅で穏やかに逝った」と
語っていた。

医療崩壊して入院施設がなくなった
北海道・夕張市でも、がんを治療しないで、
在宅で逝く人がとても増えている。
亡くなる直前まで家族と談笑し、
静かに永眠する人が圧倒的に多いようで
以前はほぼゼロだった「老衰死」も急増したという。
　
老人ホームの診療所長、中村仁一医師は「がんが見つかっても、
本人も家族も治療を望まず様子を見た80人は、がんの種類に
関係なく最後まで穏やかだった。
今までモルヒネも使ったことがない」と語っていた。

がんを治療しなかった人のほとんどは
驚くほど穏やかな経過をたどっている。

一方、本書に描かれている、あるいは逸見政孝さんや
中村勘三郎さんのように、がん治療の詳しい経緯が
公表されているかたは、ひどい苦痛に見舞われている。

臓器を切った跡が痛み、後遺症にうめき、
合併症の間質性肺炎や誤嚥などに
苦しみぬいて亡くなる人も少なくない。

大学病院で、すい臓がんの手術後に患者が立て続けに亡くなった事件では、
ひとりの医師が何人もの患者を術後に死なせても、病院内に
チェック機能がないことが明らかになった。
　
医者が死神に見えるような医療は、いずれ崩壊する。
　
医療界の内側からの変革を期待する。