基本的にこの本は、内部告発を進める本ではない。義憤に駆られて最終手段としてとるのが内部告発であるとしている。
内部告発には、必ずリスクがつきものである。それは、今までの日本の常識から考えて、裏切り行為であり組織への忠誠を打ち壊す悪として考えられているからである。たとえ、組織が犯罪行為を行っていたとしてもである。これが原因となって、日本の組織には不正行為違法行為は行われ続けてきているのであって、社会発展の阻害となっている一因ともいえる。その一方で、良心の呵責に耐えかねている組織メンバーも十分に入る可能性がある。
しかし、安易に内部告発をすべきではないと筆者は主張する。先にいったように、必ず内部告発後に調査があり、その情報源をさがしだそうとする。これは報復人事につながり、さらには社会的にも不利益を被る可能性が十分にある。また、内部告発を行う人間は、大方その所属する組織の中で人事評価などで不当な扱いを受けているという思い込みから行っている場合も少なくない。告発を行おうとする人間から見て不正が行われていると思い込んでいても、法律上何ら問題なく、公共の利益を損なうものでもなかったりする場合がある。
以上のことから、内部告発は最終手段として行動すべきであるとしている。そのプロセスは、法律上の問題あるいは公共性を著しく害しているかの評価し、その告発をもってどのような状態にしていくのが最も理想的であるかを決めておくことが必要である。そして、証拠資料の収集方法、守秘義務の回避方法、仮に告発された人間からの反撃に合わないよう回避する方法示している。
この本を読んで妙に暗い気持ちになった。記憶には定かではないが、奥村宏の無責任経営に関する著書の中で、イギリスあるいはアメリカでは内部告発に対して公共の利益を守った英雄として扱われ、さらに経済的利益および身分保障を守る法律ができていることが記されている。本書でも若干この点に増えているが、日本ではまだまだ日陰者としての汚名を着せられることが多いために、内部告発を決して勧めないとしている。日本でも内部告発を保護する法律が検討されているが、相変わらずその成立の見込みはほとんどないようである。このような状況下では、大銀行の倒産や住宅公社の使い込み事件など再発防止する手立てがほとんどないことを意味している。これで本当にいるだろうか。
学術的に見て、この本はあまり見るところはないが、内部告発を受けた新聞記者や告発を受けた組織の構造変化などの技術から見ると、組織論的あるいは倫理学的に見て、面白い箇所がかなりある。