しろばんば (新潮文庫)
井上靖の自伝的長編小説です。
大正時代初期、ようやく旧天城トンネルが完成した下田街道沿い湯ヶ島の小学校に、主人公の洪作少年が通った六年間を描いています。
穏やかな気候で知られる伊豆の豊かな自然のなかで成長する洪作少年の物語は、「おぉ、これだけの経験をすれば、小学生としては充分、充実している」と、感激する豊かさでした。
小学校低学年の時には、気分のままに保護者であるおばあさんに八つ当たりしたり、近所の親戚の家に泊まりに行ったはずが、黙って帰ってきてしまったり、それなりに幼さがあるのですが、
中学年から高学年に掛けて、友達とけんかをして怪我をさせてしまったり、かわいがってくれた従姉妹のお姉さんが死んでしまったり、親戚の激しい兄弟げんかに接し、嵐の夜にはおばあさんを助けて役に立ち始めたり、気になる女の子が転校してきて、憧れを感じ、反目し、旅行に行っては聡明な同年代の子どもに感心し、勉強を教わっていた先生が神経衰弱、温泉でのマナーのあれこれ、様々な体験をし、また、それぞれの事件に、周囲の大人が様々な反応をし、洪作はそれらを全て吸収していきます。
「子どもは遊ぶのが仕事。」
と言うのは、このような経験を積むことが目的だったのだな。と納得してしまう一冊でした。
エンディングに近くには、老人をいたわる心が芽生え、自主的に学習に取り組み始める瞬間があり、子どもではなく男として振る舞わなければならないと感じ、級友と将来つくべき職業を初めて語る、など、すっかりたくましく育った洪作がいました。
大正時代初期、ようやく旧天城トンネルが完成した下田街道沿い湯ヶ島の小学校に、主人公の洪作少年が通った六年間を描いています。
穏やかな気候で知られる伊豆の豊かな自然のなかで成長する洪作少年の物語は、「おぉ、これだけの経験をすれば、小学生としては充分、充実している」と、感激する豊かさでした。
小学校低学年の時には、気分のままに保護者であるおばあさんに八つ当たりしたり、近所の親戚の家に泊まりに行ったはずが、黙って帰ってきてしまったり、それなりに幼さがあるのですが、
中学年から高学年に掛けて、友達とけんかをして怪我をさせてしまったり、かわいがってくれた従姉妹のお姉さんが死んでしまったり、親戚の激しい兄弟げんかに接し、嵐の夜にはおばあさんを助けて役に立ち始めたり、気になる女の子が転校してきて、憧れを感じ、反目し、旅行に行っては聡明な同年代の子どもに感心し、勉強を教わっていた先生が神経衰弱、温泉でのマナーのあれこれ、様々な体験をし、また、それぞれの事件に、周囲の大人が様々な反応をし、洪作はそれらを全て吸収していきます。
「子どもは遊ぶのが仕事。」
と言うのは、このような経験を積むことが目的だったのだな。と納得してしまう一冊でした。
エンディングに近くには、老人をいたわる心が芽生え、自主的に学習に取り組み始める瞬間があり、子どもではなく男として振る舞わなければならないと感じ、級友と将来つくべき職業を初めて語る、など、すっかりたくましく育った洪作がいました。
pray
松雪泰子のデビューアルバム。この他にも数枚のアルバムやシングルが発売されているが、この一作目が最も出来がいい。曲も聴きやすく良質な楽曲ばかりである。彼女の音楽面に触れてみるなら、取りあえずこのアルバムから入ってみてはどうだろう。
天平の甍 [VHS]
主役は「中村嘉葎雄」で、「中村錦之助」の弟。派手な作品の多い兄に対して、この人は地味な作品が多い。
「鑑真和上」役の「田村高廣」もほぼ想定内の演技。
これも又、上映2時間半、中国ロケの大作であるが、「敦煌」ほどの迫力はない。
見覚えのある風景があちこち出てくるので、撮影は蘇州や北京がメインで行われたものと思われる。
数晩かけて読んだ原作の記憶はどこかに行ってしまったが、
唐の文化を学ぶために唐に渡った若き僧侶が、最初のうちは仏典の翻訳などをしていたが、余りにも膨大な原典の数に、途中からは書写に切り替えてしまう。そして、数十年をかけて書写した写本を日本に持ち帰ろうとするのだが、途中、船は難破して、写本は海の藻屑となって行く。たゆたう海藻と、その中に沈みゆく仏典の数々…。
という記憶だけは鮮明に残っている。
今回見た映画は、若き留学僧達が「鑑真和上」を日本に招聘しようと苦闘する物語だった。原作もそうだったんだろうか?
「平城遷都1300年記念事業」で「復元朱雀門」の見える位置に「遣唐使船」が復原展示されていたが、この映画によれば、あんな船4艘で船団を組み、600人弱の乗員をもって中国大陸を目指したとのこと。4艘まともに行き来できたことはまずないであろう。
画面全体に赤茶けた色のかかった映画。劣化によるものではなく、そうしたタッチ?
井上靖・歴史大ロマンと題した、映画館で見た。
「鑑真和上」役の「田村高廣」もほぼ想定内の演技。
これも又、上映2時間半、中国ロケの大作であるが、「敦煌」ほどの迫力はない。
見覚えのある風景があちこち出てくるので、撮影は蘇州や北京がメインで行われたものと思われる。
数晩かけて読んだ原作の記憶はどこかに行ってしまったが、
唐の文化を学ぶために唐に渡った若き僧侶が、最初のうちは仏典の翻訳などをしていたが、余りにも膨大な原典の数に、途中からは書写に切り替えてしまう。そして、数十年をかけて書写した写本を日本に持ち帰ろうとするのだが、途中、船は難破して、写本は海の藻屑となって行く。たゆたう海藻と、その中に沈みゆく仏典の数々…。
という記憶だけは鮮明に残っている。
今回見た映画は、若き留学僧達が「鑑真和上」を日本に招聘しようと苦闘する物語だった。原作もそうだったんだろうか?
「平城遷都1300年記念事業」で「復元朱雀門」の見える位置に「遣唐使船」が復原展示されていたが、この映画によれば、あんな船4艘で船団を組み、600人弱の乗員をもって中国大陸を目指したとのこと。4艘まともに行き来できたことはまずないであろう。
画面全体に赤茶けた色のかかった映画。劣化によるものではなく、そうしたタッチ?
井上靖・歴史大ロマンと題した、映画館で見た。
あすなろ物語 (新潮文庫)
井上靖氏の自伝的小説であり「しろばんば」以後、という見方もできる。
ただし完全な自伝ではなく、虚構を交えている。
6部構成の物語は、主人公・鮎太の少年時代から成人時代までを年代順に追ってゆく手法。
そこに太平洋戦争終戦までの時代のうねりを重ね合わせ、それぞれの時期に出会った人々の姿を、
鮎太の目から印象的に映し出している。
檜になりたくても、決してなれない翌檜の木を比喩として、懸命な生を仮託する。
多くの人との交わりを通じ、雑踏の中にある孤独と、高揚を同時に描き出している。
最終章における、廃墟から立ち上がろうとする逞しい人々の姿の描写には、
井上靖氏の中にある人間愛の形を見るような気がする。
人はそれぞれ孤独であり、それゆえ時に狂おしいほど人を求め、奇妙に交錯しながら明日を探す。
井上靖作品の中に共通して見られるテーマだと思うが、あすなろの木の姿によって、それが象徴的に描かれている。
ただし完全な自伝ではなく、虚構を交えている。
6部構成の物語は、主人公・鮎太の少年時代から成人時代までを年代順に追ってゆく手法。
そこに太平洋戦争終戦までの時代のうねりを重ね合わせ、それぞれの時期に出会った人々の姿を、
鮎太の目から印象的に映し出している。
檜になりたくても、決してなれない翌檜の木を比喩として、懸命な生を仮託する。
多くの人との交わりを通じ、雑踏の中にある孤独と、高揚を同時に描き出している。
最終章における、廃墟から立ち上がろうとする逞しい人々の姿の描写には、
井上靖氏の中にある人間愛の形を見るような気がする。
人はそれぞれ孤独であり、それゆえ時に狂おしいほど人を求め、奇妙に交錯しながら明日を探す。
井上靖作品の中に共通して見られるテーマだと思うが、あすなろの木の姿によって、それが象徴的に描かれている。
主役は「中村嘉葎雄」で、「中村錦之助」の弟。派手な作品の多い兄に対して、この人は地味な作品が多い。
「鑑真和上」役の「田村高廣」もほぼ想定内の演技。
これも又、上映2時間半、中国ロケの大作であるが、「敦煌」ほどの迫力はない。
見覚えのある風景があちこち出てくるので、撮影は蘇州や北京がメインで行われたものと思われる。
数晩かけて読んだ原作の記憶はどこかに行ってしまったが、
唐の文化を学ぶために唐に渡った若き僧侶が、最初のうちは仏典の翻訳などをしていたが、余りにも膨大な原典の数に、途中からは書写に切り替えてしまう。そして、数十年をかけて書写した写本を日本に持ち帰ろうとするのだが、途中、船は難破して、写本は海の藻屑となって行く。たゆたう海藻と、その中に沈みゆく仏典の数々…。
という記憶だけは鮮明に残っている。
今回見た映画は、若き留学僧達が「鑑真和上」を日本に招聘しようと苦闘する物語だった。原作もそうだったんだろうか?
「平城遷都1300年記念事業」で「復元朱雀門」の見える位置に「遣唐使船」が復原展示されていたが、この映画によれば、あんな船4艘で船団を組み、600人弱の乗員をもって中国大陸を目指したとのこと。4艘まともに行き来できたことはまずないであろう。
画面全体に赤茶けた色のかかった映画。劣化によるものではなく、そうしたタッチ?
井上靖・歴史大ロマンと題した、映画館で見た。
「鑑真和上」役の「田村高廣」もほぼ想定内の演技。
これも又、上映2時間半、中国ロケの大作であるが、「敦煌」ほどの迫力はない。
見覚えのある風景があちこち出てくるので、撮影は蘇州や北京がメインで行われたものと思われる。
数晩かけて読んだ原作の記憶はどこかに行ってしまったが、
唐の文化を学ぶために唐に渡った若き僧侶が、最初のうちは仏典の翻訳などをしていたが、余りにも膨大な原典の数に、途中からは書写に切り替えてしまう。そして、数十年をかけて書写した写本を日本に持ち帰ろうとするのだが、途中、船は難破して、写本は海の藻屑となって行く。たゆたう海藻と、その中に沈みゆく仏典の数々…。
という記憶だけは鮮明に残っている。
今回見た映画は、若き留学僧達が「鑑真和上」を日本に招聘しようと苦闘する物語だった。原作もそうだったんだろうか?
「平城遷都1300年記念事業」で「復元朱雀門」の見える位置に「遣唐使船」が復原展示されていたが、この映画によれば、あんな船4艘で船団を組み、600人弱の乗員をもって中国大陸を目指したとのこと。4艘まともに行き来できたことはまずないであろう。
画面全体に赤茶けた色のかかった映画。劣化によるものではなく、そうしたタッチ?
井上靖・歴史大ロマンと題した、映画館で見た。