暗室 (講談社文芸文庫)
久々に,勢いに押されて末尾まで突き進んで読んだ。
以下要約兼感想。
人間は必ず性を持って生まれる。その単純な事実が単純ではない事態を生んでいく不思議さ。ひとつになったはずのものは,必ずしも同一にはならず,逆に同一であるものは同一でなくなっていくという構図が繰り返される。自問自答で,カギ括弧の連続がなされている。自分が自分でない感覚,自分の意識とは無関係に存在する性器や意識がある。レズビアンの頭以外は同一にとけ込む。生命とつながり生殖と深いつながりを持つ女性器は,なぜか死の香りを放つ。それは紫色に沈殿した極悪の薔薇だ。死と乙女,死と生殖器,タナトスとエロス。交錯した世界の中を男が行きつ戻りつし,女との深い溝を発見したとき,そこは光の届かない暗くしめった陰気な部屋のようだ。気付く。全ては暗がりの中に広がっており,おびただしい死の香りを嗅ぐことになる。メダカは死屍累々と腹を見せて浮く。空襲で焼かれた人々の死体が,物であることを知る。それらの死や残酷さは生まれるということの罪や白痴の生まれる可能性と切っても切れない。吉行が描く性とはその不気味で不可解な魅力なのだろう。性,それは,人を惹きつけてやまないと同時に,飽き飽きさせる魔力を持つ。罪悪感を感じながらも突き動かされる何かにしがみつく私たち。その何かが性である。
以下要約兼感想。
人間は必ず性を持って生まれる。その単純な事実が単純ではない事態を生んでいく不思議さ。ひとつになったはずのものは,必ずしも同一にはならず,逆に同一であるものは同一でなくなっていくという構図が繰り返される。自問自答で,カギ括弧の連続がなされている。自分が自分でない感覚,自分の意識とは無関係に存在する性器や意識がある。レズビアンの頭以外は同一にとけ込む。生命とつながり生殖と深いつながりを持つ女性器は,なぜか死の香りを放つ。それは紫色に沈殿した極悪の薔薇だ。死と乙女,死と生殖器,タナトスとエロス。交錯した世界の中を男が行きつ戻りつし,女との深い溝を発見したとき,そこは光の届かない暗くしめった陰気な部屋のようだ。気付く。全ては暗がりの中に広がっており,おびただしい死の香りを嗅ぐことになる。メダカは死屍累々と腹を見せて浮く。空襲で焼かれた人々の死体が,物であることを知る。それらの死や残酷さは生まれるということの罪や白痴の生まれる可能性と切っても切れない。吉行が描く性とはその不気味で不可解な魅力なのだろう。性,それは,人を惹きつけてやまないと同時に,飽き飽きさせる魔力を持つ。罪悪感を感じながらも突き動かされる何かにしがみつく私たち。その何かが性である。
砂の上の植物群 (新潮文庫)
主人公に大きく影を落とす父親の存在が物語に奥行きを与えている。
吉行氏にとっては父親の存在はかなり大きいらしく、他の作品でも父親の行動に引きずられる息子を描いた作品がある。
息子にとって父親は「大人になるためには越えなければならない壁であり、またいつまでも越えられない壁なのだ」とは良く言われる事だ。しかし主人公のように父親が今の自分よりも若いときに死んでしまっているのでは「どうやって父親を越えたことを父親に知らしめることができようか」という嘆きも聞こえてきそうだ。
愛人と性的な関係に滑り落ちていくことに、主人公はあまり抵抗を示さない。迷い、ためらいながらも結局関係を深めていってしまう。これはどこかで「派手な生活をしていた父親」を越えることができる!かもしれないと言う、父親に対するライバル心の現れだったのではなかったのだろうか。
性的な表現に抵抗があるかもしれないが、上記のような背景を考えると主人公を単純に性的充足を求める輩と規定するわけにはいかないと思う。父子関係という永遠のテーマのひとつを扱った作品と言えるのではないだろうか。
表題作の原形となった作品が併録されており、対比すると物語の膨らませ方も楽しめる作品集だ。
吉行氏にとっては父親の存在はかなり大きいらしく、他の作品でも父親の行動に引きずられる息子を描いた作品がある。
息子にとって父親は「大人になるためには越えなければならない壁であり、またいつまでも越えられない壁なのだ」とは良く言われる事だ。しかし主人公のように父親が今の自分よりも若いときに死んでしまっているのでは「どうやって父親を越えたことを父親に知らしめることができようか」という嘆きも聞こえてきそうだ。
愛人と性的な関係に滑り落ちていくことに、主人公はあまり抵抗を示さない。迷い、ためらいながらも結局関係を深めていってしまう。これはどこかで「派手な生活をしていた父親」を越えることができる!かもしれないと言う、父親に対するライバル心の現れだったのではなかったのだろうか。
性的な表現に抵抗があるかもしれないが、上記のような背景を考えると主人公を単純に性的充足を求める輩と規定するわけにはいかないと思う。父子関係という永遠のテーマのひとつを扱った作品と言えるのではないだろうか。
表題作の原形となった作品が併録されており、対比すると物語の膨らませ方も楽しめる作品集だ。
原色の街・驟雨 (新潮文庫)
とても昭和20年代に書かれたとは思えない時代を感じ
させない文章にまず驚いた。
娼婦との揺らぐ人間関係を描いた「驟雨」をおもしろく
読んだ。
身につまされる思いがする。娼婦だったときには心を探
ることなく、他愛のない会話を繰り返すのだけれども、
相手への思いが次第に募り、一人の娼婦が「固有名詞」を
持つにいたる。
増していく探りを入れるような会話、相手を思う心。
それにつれて、生じてくる嫉妬心とそれに抗う自我。
主人公の繊細な心の動き、映像が目の前に浮かんでくるよ
うな風景描写に心を打たれる。
させない文章にまず驚いた。
娼婦との揺らぐ人間関係を描いた「驟雨」をおもしろく
読んだ。
身につまされる思いがする。娼婦だったときには心を探
ることなく、他愛のない会話を繰り返すのだけれども、
相手への思いが次第に募り、一人の娼婦が「固有名詞」を
持つにいたる。
増していく探りを入れるような会話、相手を思う心。
それにつれて、生じてくる嫉妬心とそれに抗う自我。
主人公の繊細な心の動き、映像が目の前に浮かんでくるよ
うな風景描写に心を打たれる。