類まれなる音楽センスを身に付け、誰もが羨むライフスタイルを貫きながら、日本音楽界に大きな足跡を残し、そして消えた。「加藤和彦」を演じ続けた男には、音楽的な絶頂期と呼べる時代が、少なくとも3度訪れたと思います。
1967年から約1年間のみ活動した、ザ・フォーク・クルセダーズ時代。
1971年から1975年まで、日本国内のみならず、イギリスでも人気を博した、サディスティック・ミカ・バンド時代。
そして、作詞家、安井かずみと再婚後、ソロシンガー、作曲家として、三部作「パパ・ヘミングウェイ」「うたかたのオペラ」「ベル・エキセントリック」を発表した1979年〜1981年。
この「バハマ・
ベルリン・
パリ 加藤和彦ヨーロッパ3部作」は、オリジナル音源に可能な限り忠実にリマスターされた三部作のCDに、その当時の録音データや加藤和彦手書きのコード譜、安井かずみ手書きの歌詞、レコーディング風景などを紹介したカラーの冊子がセットになっています。
この三部作は、いわくつきの作品のようで、「ベル・エキセントリック」の
ジャケットを飾った金子國義さんの絵画が、あまりに当時の「加藤和彦」の音楽世界にふさわしいものであったため、初CD化の際は、他の「パパ・ヘミングウェイ」「うたかたのオペラ」も金子作品に差し替えられてしまいました。
かつて、オーマガトキから再発された際は、レコードをミニチュアで再現した紙
ジャケットは嬉しかったのですが、音源はオリジナルではなく、特に「パパ・ヘミングウェイ」の「レイジー・ガール」では、佐藤奈々子さんの可愛い歌声がカットされていた、という往年のファンには許しがたい内容でありました。
そんな、過去の反省?をふまえて、今回は、当時のエンジニア大川正義さんが、リマスタリングを担当。昔、擦り切れるほど聴きこんだレコードの音が、最新技術により磨かれ、ひときわ鮮明に耳に届けられるのは、嬉しい限りです。
冊子の方も、
ジャケットの画像が大きく掲載され、また、フォトでもYMOの3人を始めとする当時の先鋭的なミュージシャンたちの鋭い眼差しが、欧米にもない音楽の創出を目指していた雰囲気をひしひしと感じさせます。
最高傑作は、装丁も、中身の音楽も、芸術の域に達したかのような「ベル・エキセントリック」でしょうか?録音環境が劣悪で、帰国後、かなり手が加えられたそうですが、30分という短い収録時間の中に加藤和彦の音楽美学が結晶化しています。
坂本龍一のソロによるラスト、エリック・サティ作「Je Te Veux(お前が欲しい)」は、虚空に響くワルツであり、消え去った加藤和彦の肖像を飾るにふさわしい曲。
価格は、冊子とCD3枚が各1700円で、トータル6800円+消費税。決して高いとは思えませんでした。欲を言えば、紙
ジャケットなら更に嬉しいと思います(オーマガトキ盤と中身を交換するとおっしゃた方も・・)。
【CD収録曲】
「パパ・ヘミングウェイ」
1. スモール・キャフェ 2. メモリーズ 3. アドリアーナ 4. サン・サルヴァドール 5. ジョージタウン 6. レイジー・ガール 7. アラウンド・ザ・ワールド 8. アンティルの日 9. メモリーズ(リプライズ) *
ボーナス・トラック 10. ソルティ・ドッグ 11. アラウンド・ザ・ワールド(ダブ・バージョン)
「うたかたのオペラ」
1. うたかたのオペラ 2. ルムバ・アメリカン 3.
パリはもう誰も愛さない 4. ラジオ・キャバレー 5. 絹のシャツを着た女 6. Sバーン 7. キャフェ・ブリストル 8. ケスラー博士の忙しい週末 9. ソフィーのプレリュード 10. 50年目の旋律 *
ボーナス・トラック 11. おかえりなさい秋のテーマ(絹のシャツを着た女)
「ベル・エキセントリック」
1. ロスチャイルド夫人のスキャンダル 2. 浮気なGigi 3. Amerian Bar 4. ディアギレフの見えない手 5. ネグレスコでの御発展 6. バラ色の
仮面をつけたMme M 7. トロカデロ 8. わたしはジャン・コクトーを知っていた 9. Adieu, mon Amour 10. Je Te Veux