愛と日本語の惑乱 (講談社文庫)
著者の愛読者なら、著者が教育全般に関して熱心(元々、教師志望)で、国語を初めとする教育問題に対する著作が多く、また、パステーシュの名手である事は御存知だろう。本作は恋愛小説の味を加味した上で、「日本語」の問題を小説の中で検討したもの。主人公を(著者と同じく作家ではなく)コピーライターに設定しているのは、「言葉」の意味や用法が時代と共に変り得るという立場を"やや強く"主張しているからであろう。もっとも、保守的な立場を取る学者等を登場させて、バランスを取ってはいるのだが。
扱われる「日本語」(あるいは言語一般)の問題は幅広い。著者が以前にも扱った表記法の問題や、言葉狩りの問題から、果てはチョムスキーの生成文法の話にまで拡がるのだから著者の熱心さには恐れ入る。恋愛小説味を入れる必然性を途中までは感じなかったのだが、怒涛のラストには必要だったのかなぁ~。このラストは筒井の作風を想起させるが、そう言えば、作品全体が筒井風の印象を受ける。
エッセイではなく、小説の中で自然と「日本語」の問題を扱った面白い狙いの書。上述した通り、見解のバランスを取っているのは、作家としての日頃の煩悶をそのまま映し出したものなのだろうか。
扱われる「日本語」(あるいは言語一般)の問題は幅広い。著者が以前にも扱った表記法の問題や、言葉狩りの問題から、果てはチョムスキーの生成文法の話にまで拡がるのだから著者の熱心さには恐れ入る。恋愛小説味を入れる必然性を途中までは感じなかったのだが、怒涛のラストには必要だったのかなぁ~。このラストは筒井の作風を想起させるが、そう言えば、作品全体が筒井風の印象を受ける。
エッセイではなく、小説の中で自然と「日本語」の問題を扱った面白い狙いの書。上述した通り、見解のバランスを取っているのは、作家としての日頃の煩悶をそのまま映し出したものなのだろうか。
国語入試問題必勝法 (講談社文庫)
この手のパロディー、パスティッシュ、本歌取りとでも言うのであろうか、私にはその手の小説がいささか食傷気味ではあったのだが、この清水義範による『国語入試問題必勝法』は久しぶりに読んで、腹を抱えて久々に大笑いしたものである。あはははは。
パロディーやパスティシュの名人・清水氏による短編集。
収められている短編は以下の通り。
「猿蟹合戦とは何か」
「国語入試問題必勝法」
「時代食堂の特別料理」
「靄の中の終章」
「ブガロンチョのルノワール風マルケロ酒煮」
「いわゆるひとつのトータル的な長嶋節」
「人間の風景」
の八篇である。内容は、
■「猿蟹合戦とは何か」
:丸谷才一『忠臣蔵とは何か』のパロディーである。
■「国語入試問題必勝法」
:十数年前に流行した、有坂誠人という予備校講師によって書かれた学習参考書『例の方法』のパロディーである。「例の方法」とは、本文を読まずして選択肢から正答を求めるという、極めて邪道で姑息な「テクニック」を用いた、国語入試問題の安直な説き方である。
「大、小、展、外、誤」「長短除外の法則」「正論除外の法則」「ピントが外れている文章こそ正解」などの法則に則り、あとは「機械的に」選択肢から正答を求めるというものである。
パロディーでありながら、学校教育の怠惰・弊害をも厳しく糾したものとしても、本書は楽しく読むことができる。
■「時代食堂の特別料理」
:「特別料理」を口にすることにより、忘却の彼方にあった「失われていた時」に回帰することができるというお話。プルーストっぽいつくりではある。主人公は、マドレーヌならぬ「特別料理」を食べることで、記憶の古層の中から、活き活きとした「想ひ出」を想起することかできるのである。しっとりノスタルジー系。
■「靄の中の終章」
:耄碌老人の話。
■「ブガロンチョのルノワール風マルケロ酒煮」
:お料理小説。ただ食材が「いずれの世界にもありえないのもの」なのである。それでいて「美味」と思わせてくれるのだから不思議。
■「いわゆるひとつのトータル的な長嶋節」
:球界のカリスマ・長嶋茂雄を「ネタキャラ化」した作品。長島氏はすでに「王にして道化」というポジションに落ち着いている。オーソドックスなパロディー作品である。また他の野球選手たちの、「ベタ」で「いかにも言いそう/やりそうな」言動が、ステロタイプな仕方で描き出されている。荒川、野村、張本、鈴木、金田、堀内、江川、江本、小林、谷沢、広岡、松本などに、「あまりに彼ららしい」放言/呆言をさせているのである。
■「人間の風景」
:四人の老人が、ひとり四百字詰め原稿用紙二十枚分を執筆し、「リレー小説」として四人で一冊の完結した本を作ろうという試みである。しかしその四人、それぞれが、元新聞記者であったり、元八百屋であったり、また元警察官であったり、話の内容に職業柄があらわになり、統一性のない作品が…というお話である。
といったものである。頭の疲れたときに読む精神賦活的娯楽小説。お奨め。
パロディーやパスティシュの名人・清水氏による短編集。
収められている短編は以下の通り。
「猿蟹合戦とは何か」
「国語入試問題必勝法」
「時代食堂の特別料理」
「靄の中の終章」
「ブガロンチョのルノワール風マルケロ酒煮」
「いわゆるひとつのトータル的な長嶋節」
「人間の風景」
の八篇である。内容は、
■「猿蟹合戦とは何か」
:丸谷才一『忠臣蔵とは何か』のパロディーである。
■「国語入試問題必勝法」
:十数年前に流行した、有坂誠人という予備校講師によって書かれた学習参考書『例の方法』のパロディーである。「例の方法」とは、本文を読まずして選択肢から正答を求めるという、極めて邪道で姑息な「テクニック」を用いた、国語入試問題の安直な説き方である。
「大、小、展、外、誤」「長短除外の法則」「正論除外の法則」「ピントが外れている文章こそ正解」などの法則に則り、あとは「機械的に」選択肢から正答を求めるというものである。
パロディーでありながら、学校教育の怠惰・弊害をも厳しく糾したものとしても、本書は楽しく読むことができる。
■「時代食堂の特別料理」
:「特別料理」を口にすることにより、忘却の彼方にあった「失われていた時」に回帰することができるというお話。プルーストっぽいつくりではある。主人公は、マドレーヌならぬ「特別料理」を食べることで、記憶の古層の中から、活き活きとした「想ひ出」を想起することかできるのである。しっとりノスタルジー系。
■「靄の中の終章」
:耄碌老人の話。
■「ブガロンチョのルノワール風マルケロ酒煮」
:お料理小説。ただ食材が「いずれの世界にもありえないのもの」なのである。それでいて「美味」と思わせてくれるのだから不思議。
■「いわゆるひとつのトータル的な長嶋節」
:球界のカリスマ・長嶋茂雄を「ネタキャラ化」した作品。長島氏はすでに「王にして道化」というポジションに落ち着いている。オーソドックスなパロディー作品である。また他の野球選手たちの、「ベタ」で「いかにも言いそう/やりそうな」言動が、ステロタイプな仕方で描き出されている。荒川、野村、張本、鈴木、金田、堀内、江川、江本、小林、谷沢、広岡、松本などに、「あまりに彼ららしい」放言/呆言をさせているのである。
■「人間の風景」
:四人の老人が、ひとり四百字詰め原稿用紙二十枚分を執筆し、「リレー小説」として四人で一冊の完結した本を作ろうという試みである。しかしその四人、それぞれが、元新聞記者であったり、元八百屋であったり、また元警察官であったり、話の内容に職業柄があらわになり、統一性のない作品が…というお話である。
といったものである。頭の疲れたときに読む精神賦活的娯楽小説。お奨め。
世にも奇妙な物語 映画の特別編〈特別版〉 [DVD]
4篇の物語からなる映画。
ほかの三篇はどうでもいいが、(そもそも映像短編で感動物をやるとたいてい中途半端で気だるいだけで終わる)最初の雪山はまぎれもない傑作。スクエアが出たきた時点でありふれた話だと思ったけど、ごめんなさい、勘違いでした。いやあ、マジで面白かった。
ほかの三篇はどうでもいいが、(そもそも映像短編で感動物をやるとたいてい中途半端で気だるいだけで終わる)最初の雪山はまぎれもない傑作。スクエアが出たきた時点でありふれた話だと思ったけど、ごめんなさい、勘違いでした。いやあ、マジで面白かった。