戦術眼 (ベースボール・マガジン社新書)
現・北海道日本ハムファイターズ監督で、かつて近鉄バファローズの監督としてリーグ優勝の経験を持つ、ゴールデングラブ賞4度の名捕手が語る野球論。全八章の中身は「日ハムのチーム作りビジョン」「現役・コーチ・監督時代の体験談」「リードのセオリーと攻め方」の三つのパートに大きく分類できる。
興味深いのは名将と言われた西本幸雄、仰木彬両監督の下での体験を語る下り。奇しくも同じ近鉄という球団を、(著者自らを含めて)それぞれ異なる時代に、異なる方法論で優勝へ導いた三者三様の足跡が検証される形となっている。そして鉄拳指導へのアレルギーがあり“愛のムチ”には否定的と本書で明言する著者が、一方では何度も鉄拳を食らった闘将・西本監督への思慕を隠さない辺り、人と人との絆が一筋縄ではいかない面白さを秘めている事を私達に示してくれる。
もうひとつの「江夏の21球」―1979年日本シリーズ、近鉄vs広島
当方はカープファンだが近鉄ファンの著者の熱い気持ちに敬意を表したい。佐野さんの著書は他に2冊ほど読ましていただいたがどれもテンポよくあきさせない構成だ。カープファンにとっていや球史に残る伝説の江夏の21球をスタンドからの視点でとらえた傑作です。
人を育てる名監督の教え すべての組織は野球に通ず (双葉新書)
今日現在の野球界における旬な名監督の生のインタビュー集といった構成です。
野村監督や星野監督、原監督といったスター監督ではない、玄人好みの監督人選がたまりません。
インタビューも直近で行われたようで、例えば日ハム梨田監督のインタビューでは昨シーズンから今シーズンにかけて、生まれ変わった中田選手や、凄みを増したダルビッシュ投手の話題が触れられています。
スポーツニュースや新聞からは読み取れない、各監督の野球観、人生観、組織論みたいなものが生の声で語られており、ますます野球が好きになります。
スポーツライターである筆者と各監督の信頼関係あってこそのインタビューと感じました。
ただし、内容は具体的な野球の話がほとんどで、野球に興味がない方にはさっぱりわからない内容ともいえます。
自身も名選手だった監督、選手時代は全くの無名だった監督、実業団の監督、大学の監督と様々な方が、違った視点から語っているのに、最終的には技術や能力だけでなく、「人間力」みたいなもの(礼儀や生活態度、姿勢など)に集約されるといった印象を受けました。
ドラッカーが語る「真摯さ」にも近いものを感じました。
目先の1勝が大切だが、同時に若手を育成したり、調子が悪い選手に復調のきっかけを与えなければいけない。
今年のペナントを狙いながらも、選手個人の人生までを考える。
監督は常に二律背反問題と向き合いながら、悩み、苦しみ判断を続けています。
しかも結果を出さなくては、翌年の仕事が無くなる崖っぷちの職業です。
企業経営においても目先の業績と人材育成/組織活性、もしくは短期目標と中長期目標という二律背反問題は常にありますが、まだまだかわいいもんだと思ってしまいました。
この本には登場しませんが、失敗した選手を怒鳴り散らし、ミスに対し感情を露わにする楽天の某監督は個人的には好きになれません。
そうでないと信じたいのですが、『選手よりも自分が大事』と感じてしまうことが・・・
一方、この本で登場する梨田監督の一言。
「寝坊するには寝坊した理由がある。バントを失敗すれば失敗した理由がある。サインを見逃したら見逃した理由がある。すべてに理由があるのよね。だから、そのわけをしっかり聞いてあげる。怒るだけじゃダメ。何か理由があるから、理由をまず解明してあげなあかん。それは何なのかと突き詰めていく」