奇想、天を動かす (光文社文庫)
島田作品の特徴である大掛かりで魅力的な謎を、これで もかと連発。ラストまでぐいぐいと読者を引っ張ってゆ く、その吸引力は尋常ではありません。特に冒頭に置か れた謎である、電車内のトイレからの瞬間消失は、その 描写、設定、真相とも、驚異のひとことです。 それでも読後長く印象に残るのは、壮大な犯行の中に秘
められた、犯人の心の謎であり、大掛かりな謎とストー リーを通じてその肖像が浮かび上がる構図こそが、この 作品の最大のトリックでしょう。 ここに描かれる真相は、日本人が忘れてはならない、た だしあまり語られることのない、重要な歴史的事実が背 景となっていて、ラスト近く、吉敷が口にするあるセリ
フは、作者の真摯かつストレートな心情の表出とも思え て心に残ります。一見奇異に思えるこの作品のタイトル も、実は深い意味がこめられていて、うならされます。 この作品以後、さまざまな歴史的背景を大胆に作中に取 り込み、本格ミステリーをの可能性を追求してゆくこと になる、島田作品の中でも重要な位置をしめる作品です。
少女たちの羅針盤 (2枚組) [DVD]
成海璃子主演作はハズレがないので、これも期待して劇場に観にいきました。
物語は現在と過去が入り混じり、主人公の4人の少女の誰が殺されたのか?誰が殺したのか?を追う構成になっています。
正直、サスペンス・ミステリーとしてはちょっと普通過ぎるかな…。
それよりも、過去のシーンの演劇にかける少女たちの描写がすばらしい!
猪突猛進キャラの成海に対して、忽那汐里、森田彩華、草刈麻有の4人がそれぞれのキャラクターで絡んでくるのですが、
この中で特に草刈麻有の、おっとりとしていながら芯の強いキャラがとても魅力的です。しゃべり方が可愛いったら!
彼女たちが演劇部を結成し、地道に経験を積みながら晴れの舞台を迎えるまでの中盤はグっときます。
地方中核都市の女子高生の生活風景も、いいですね。
DVDでは是非、舞台シーンの完全版とかを特典に入れてほしいところです。
異邦の騎士 改訂完全版
あとがきにもあるが、本当なら本作がデビュー作品となるはずだったが、
島田氏いわくデビュー作としてはインパクトにかけるということで、
「占星術殺人事件」がデビュー作となった。
占星術殺人事件で度肝を抜かれ、斜め屋敷の犯罪と発表順に読み、
その面白さに御手洗潔シリーズに相当な愛着を持ち始めていた私は、
異邦の騎士・完全改訂版で完全に御手洗シリーズの虜になった。
本作にはそれほどの力があると思うし、思い入れもかなりあり異邦の騎士改訂愛蔵版も買った。
だだ本作は、占星術殺人事件、斜め屋敷、御手洗潔の挨拶というシリーズの前作を読んで、
初めて魅力をフルに発揮する作品である。
大事なのでもう1度。
本作を完全に楽しむには、占星術殺人事件、斜め屋敷は必ず読んでおくこと。
斜め屋敷の犯罪 (講談社文庫)
本書は著者の長編第2作であり、ひとによってはデビュー作「占星術〜」より評価が高い。
それは、とても視覚的なトリックのためであろう。
もちろん図が挿入されているのだが、私も、あのトリックには確かにびっくりした。
そのインパクトは絶大である。
初期の作品であるだけ、御手洗のキャラクターもいい感じのエキセントリックさだ。
作品全体の雰囲気も、若書きの荒っぽい感じがとても良い。
今の、ある意味こなれたテクニックを駆使した、読者を十分に意識したものではない。
著者が、自分の好きなもの、書きたいものを書いたんだ、という感じが手に取るように分かる。
「占星術〜」が乱歩賞応募作ということを考えると、本作が実質的なデビュー作ともいえる。
今の著者では書けないであろう、大変いきおいのある作品である。
著者の若いエネルギーと本格ミステリに対する情熱があふれている。
多くの島田ファンが指示するのが、よくわかる。
間違いなく、本格ミステリの歴史に残る傑作である。
占星術殺人事件 (講談社文庫)
読み始めからやや難儀する。
なにせ事件が起きたのは昭和11年。
自分の5人の娘から、それぞれ最良の部分を用いて最高の女性を作り上げることを妄想していた、犯罪者と思しき男性の難解な手記から物語は始まる。
実際に彼の娘たちは殺害され、バラバラ死体が発見されていた。
しかし、彼女たちを殺害したのは狂気染みた考えを持つ父親ではなかった。
父親は、彼女たちが殺害される以前に屋内で殺害されていた。
時代感のある文章と、狂気を感じさせる内容が相まって、最初からこの物語の雰囲気が決定付けられる。
時は流れて昭和53年。
当時の事件は未だ犯人不明の謎のままだった。
また、殺害された女性の一部を組み合わせて作られたであろう人造人間?「アゾート」が日本のどこかに隠されている、とも言われていた。
鬱を患い、時折体調を崩す占い師「御手洗」。
その知り合いが御手洗に謎解きをけしかけ、自らも謎に挑む。
何度も事件の核心に迫りつつあると思わせながら、その説は既に過去に考えられていたものであるなど、読者は何度も翻弄される。
彼らは事態打開のため、事件に関係する人物を尋ねて京都へ向かう。
途中で警察が介入してきたことにより、事情が複雑になり彼らが推理するのに必要な時間は限られていた。
最終的に彼らは真犯人を突き止められるのか。
全体を通して読みにくさは否めないが、トリックが秀逸。
叙述物でだまされるようなある種の爽快さではなく、このトリックは感動に近い。
こんな面白い作品を今まで読んでいなかったのが悔やまれる。
島田荘司って初めて読んだけどすごい。
きっとすごく頭良いのだろうな。
他の作品も読んでみよう。