ハイドン:交響曲 (Haydn 'London' 12 Symphonies / Marc Minkowski Les Musiciens Du Louvre ・ Grenoble) [4CD] [輸入盤・日本語解説書付]
マルク・ミンコフスキ(Marc Minkowski 1962-)指揮、レ・ミュジシャン・デュ・ルーヴル(ルーヴル宮音楽隊)によるハイドン(Franz Joseph Haydn 1732-1809)のロンドン交響曲集(93〜104番;「ザロモン・セット」と同意)。ハイドン没後200年にあたる2009年の録音。
さてさて、随分と議論のネタになりそうなアルバムである。スリリングでとても面白い演奏だと思うが、その一方で疑問点も残っており、現時点で私自身の評価にも迷いがある。これらの演奏には、新しい試みがいくつかある。交響曲第103番「太鼓連打」(パウケンシュラーク)の冒頭のティンパニの即興、ハイドンがイメージしたイギリスの軍楽のイメージとの間に乖離があるとは思うけれど、実に華やかで面白い。鮮烈な効果であり、私は肯定的に聴いた。また、交響曲第98番の終楽章では、ハープシコードの楽しいカデンツァが挿入されており、これまた一興ある。
しかし、賛否がくっきり分かれそうなのは、交響曲第94番「驚愕」の第2楽章。この楽章を特徴づける弦の弱音による主題提示のあとの「強烈なティンパニを伴うフォルテ音」は、当時演奏会中に眠っていたり、おしゃべりをしていたりする聴衆への「音楽的いたずら」として考案されたもの。ところが、この「ジャン!」という合奏音を、この演奏では楽団員の「叫び声」で置換しているのだ。これはどうだ?確かにびっくりする。というより、なにか再生機が故障したのではないか、と思ってしまう。だが、演奏会での一回限りでのジョークなら、私もウェルカムであったのだけれど、このようなCDとして、ある程度長い時間軸での価値を問われるメディアにおいて、このような一過性のジョークをわざわざ盛る必要があるのか、ということである。もちろん、録音には時点観測的な「記録」という面もある。しかしそうであっても、例えばこの叫び声のない通常バージョンを併録するような配慮があっても良かったのではないか?(一応、正規のスコアでリピートはしているが・・・)私がこだわるのは(異論もあるかもしれないが)、今回収録されている叫び声が、私には「音楽的」には聴こえないし、どちらかというと、騒音とも言える「金切り声」に分類されると思うからだ。
しかし、演奏が素晴らしいことは確か。なんといっても勢いがある。心地よいスピード感を保ちつつも量感の豊かな幅のある音色で、ピリオド楽器オーケストラとは思えないような太いうねりを感じ取れる。そのため、部分的に木管のフレーズが埋もれてしまうところが少しあるのだけれど、全体の流れで押し切ってくれているので、強く指摘するほどには気にならない。
交響曲第104番「ロンドン」はハイドンが辿りついた古典派交響曲の究極作品と言える傑作だが、このミンコフスキの躍動感にみちた活力に溢れる演奏には、光彩陸離たる自信が漲っていて素晴らしい。いくつか疑問点を保留しながらも、全体的な評価として、このアルバムを推すことには、躊躇はない。
サウンド・オブ・ミュージック 製作45周年記念HDニューマスター版:ブルーレイ&DVDセット (初回生産限定) [Blu-ray]
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やや声のパートの音量が低めと感じるが、演奏はリア・サラウンドバックをメインに、古い劇場の様に心地良く響く印象。後半の“エーデルワイス”では涙がこぼれた。
貴重な映像・音声特典はどれも興味深いものばかり。
ヴァーチャル・ツアーは良く出来ているし、ブロードウェイ初演や映画化に至るまで、マリアご本人とジュリー・アンドリュースとの対談や共演、子役達の40年目の同窓会など、どれも飽きずに楽しめる。
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旧作ブルーレイのひとつの完成形と思えた。
プレミアムの名に相応しい、隅々まで堪能できる仕上がり。
【初回限定生産】キッズ・オールライト オリジナルバージョン [DVD]
中年のレズビアンカップルが主人公というのは、初めて観たような気がします。・ファミリーというマイナーな場に設定しながら、ファミリーの全般に通じる面を活写している。
アネット・ベニングとジュリアン・ムーアという、上手いのに軽味も出せる名女優の組合せの妙。
一家を経済的に支える医師のニックは厳格すぎるし、不安定なガーデニング業を始めたジュールズはお気楽な独身男のポールと突発的に浮気する。この物語の大人たちは親というには欠点だらけなのだが、それでも確かな愛情で結ばれている。平凡な家族が“小さな波風”を経て、本当の愛情を確認しあい家族の絆を深めるストーリーは、同性愛カップルということを除けば、よくある話だ。過ちや失敗は認めながらも自分をしっかりと主張し、わだかまりを解消していく。
しかし、親の方は一応おさまりがつくけれども、果たして子供たちはどうかと考えると、心残りな印象を受けます。楽天主義的雰囲気と残された不安。姉弟はいろいろな経験をしたわけだが、といって、二人は特別の認識を体験したわけでもない。むしろ、二人は、親の勝手な行動に振り回された感じである。つまり、原題が意味する「子供たちは大丈夫」(The Kids are All Right))などでは全然なさそうなのですよ。勿論、その含みがこの映画のタイトルの意味するところなんでしょうけどね。
スミス都へ行く [DVD]
J・スチュアートの有名な演説シーンだけは知っていたが、やっとDVD鑑賞した。
DVD画質は、ロケ・シーンや合成されている背後の風景などはあまり鮮明ではない。
1930年代の映画にしては、画質はまあまあだと思う。
上院議員の空席を埋めるために選ばれた青年・スミス(J・スチュアート」は、田舎の少年団(ボーイ・スカウト)の団長。
政治に関しては全くの素人、ワシントンに来た「おのぼり」スミスが、子供の様な輝く瞳と表情でリンカーン像等を見つめるシーンに、政治家に求められる「初心」の貴さを痛切に感じた。
素人議員・スミスの有能な秘書、サンダース役のジーン・アーサーが、すごく魅力的な女性を演じている。
サンダースが着こなす、当時のキャリア・ウーマンの洗練されたファッションが楽しい。
報道陣からスミスが、「お飾り議員」「法律・政治に関しての無知ぶり」を指摘され、一念発起して秘書の指導のもとに法案を作成するが、「虎の尾を踏む法案」のために、スミスに災難が降りかかっていく。
アメリカの理想・民主主義・良心・正義を主たるテーマとし、腐敗した政治家や形骸化した議会を風刺した良い作品だとは思うが、スミスが新聞記者達を次々と殴るシーンや、ラストのオチなどに不満が残った。
作られたのがナチス台頭の時代だったこと、映画公開に先立ち「政治家とマスコミ」から批判され、ライバル社からも圧力を受け、公開が難航したエピソード等を含めての評価で★4以上
脇役陣の顔ぶれが渋いし、みんな巧い。スミスと対立するペイン議員(クロード・レインズ「カサブランカ」)、新聞記者(トーマス・ミッチェル「駅馬車」「風と共に去りぬ」)、上院議会議長(ハリー・ケリー「赤い河)など。
原題は「Mr. Smith Goes to Washington」