切れた鎖 (新潮文庫)
父親の不在と、自分が父親であることに耐えられるかわからない不安。
それらをバックボーンとした、母であり娘である関係への憧憬と畏れ。
根っこにあるのは、狭い範囲で生き、そこから動こうとしない土着性。
本質的には、半径5メートルくらいの表現に拘った緻密な描写たち。
何かが欠けると、その欠け目が引っ掛かり動けなくなるのでしょうか。
ブータン、これでいいのだ
昨年来日されたブータン国王の言葉は、日本人にとって素晴らしい贈り物となりました。
日本人とよく似た顔、着物に似た民族衣装の国、くらいの認識しかなかったブータンに対して、国王来日とともにテレビなどで大きく取り上げられるようになった「GNH(国民総幸福量)」についても興味があって、この本を手に取りました。
「GNH」というものがどのように追求され、実際に国民の幸せとはどんなものなのか、というのが一番興味がありました。幸福の定義は人によって変わるはずだと思ったからです。
国の目指す幸福と国民の欲する幸福は本当に一致するのか、それは経済や国際関係とどう折り合いをつけるのか、「GHN」という考えは素晴らしいけれど、現実には問題もあるはずだ、という思いもあって読んだのですが、そういう点についても著者の見たブータンの姿が礼讃でも否定でもない、経営コンサルタント会社に勤めていた若い女性の、バランス感覚に優れた冷静かつ暖かい視点で書かれていてよくわかりました。
この本のタイトルにもある「これでいいのだ」という言葉のエピソードもとてもいいと思います。
肩の凝らない読みやすい本ですが内容は濃いので、ブータンに興味を持った方もそうでない方も、ご一読をお勧めします。
幸福について―人生論 (新潮文庫)
まさかショーペンハウエルがAmazonのランキングで1位になるとは想像もできなかった。
ショーペンハウエルのこの本に出会ったのは、大学1年の時。衝撃的な出会いだった。この大宇宙でたった一人だけ覚醒しているような感覚に捕らわれており、それをうまく自分でも説明できないもどかしさを感じていた。そしておかしいのは自分であり、いずれ大勢に合わせるように自己改造が必要なんだろうな、と思っていた時だった。もっとはるか先まで歩き、その状況をうまいこと説明し、お前の状態は当然のあり方で、大勢の方がおろかしいと励ましてくれたのが本書だった。その後、ショーペンハウエルの紹介により、エックハルトなどと対話することが今では多いが、決してショーペンハウエルの事を忘れたことはない。わたしが読んだ時より、活字が大きくなって読みやすくなった感じがして、今日、またこの本を買ってしまった。久しぶりに読みなおしたいと思う。
この本を初めて読んだころ、すべての国民に本書を読ませたら、くだらない世の中、少しはましになるのではないかと思っていた。Amazonのランキングで1位になるくらいの人がこの本を読んでいるんだから、この国ももう少しましになるか。
バルトーク : 管弦楽のための協奏曲 / ヤナーチェク : シンフォニエッタ
セルによるバルトークの「管弦楽のための協奏曲」とヤナーチェクの「シンフォニエッタ」は他にはユニークな演奏だと思う。最近、刊行された「1Q84」で取り上げられたとかで、急にCDが売れ出し、レコード会社も驚いているということだが、スタンダードな演奏ではなく、セルの考えが前面に出たものであると思う。バルトークの方はフィナーレのカット改変はそのいい例であるし、ヤナーチャクもかなり遅めで他の演奏と比べると際立っているように思えた。それでいて立派に聴こえるのは流石だと改めてセルという指揮者を敬服したしだいである。