事情のある国の切手ほど面白い (メディアファクトリー新書)
国家が発行する切手は国家の正当性やイデオロギーが表現されている、という郵便学を提唱する著者の新作。著者は切手と国際政治をテーマに数多く本を出しているが、本書も面白い。パキスタンで最初の女性首相になったベナジル・ブットは、首相になると暗殺された父の切手を出し、ベナジルが暗殺された後は、汚職で8年も獄中にいた夫のザルダリが妻と義父の切手を出す。死んだ権威に依存しないとやっていけない腐敗した世襲政治家の苦しさを感じさせる。ほかにも経済が悪くなってから、ヒーロー・ゲバラの切手で外貨を稼ぎ、弟が後継になってからはカストロの肖像切手も解禁したキューバ、昔は反核を訴える切手を出していた北朝鮮、自国語の切手が出せないベルギーなど、国情を示す切手に著者の豊富な国際政治の解説がつき、楽しく読める。
奇妙な日本が描かれたアフリカやカリブのいんちき切手集、というのも楽しい。ほぼ実用価値がないのに、コレクションとして買ってしまう実用品、というところに切手の面白さがあるのだろうか。