コロヨシ!! (角川文庫)
異なる歴史を辿った日本を舞台に、高校生が「掃除」に青春をかける物語。
「掃除」は様式化された武術にも似た競技で、高校の部活動で行われ、全国大会も開催されたりします。
掃除の歴史に深く関わっているらしい謎の祖父、これまた謎だらけの父、主人公に小遣いをねだるかわいい妹、エロ生意気でハイソな幼馴染、掃除の天才的プレーヤーであるまたまた謎の親友や謎の後輩、一見役に立たないぐーたらだけどとんでもない実力を持った部活顧問等々、ラノベっぽいキャラの立った登場人物らが、松本大洋のマンガ「ピンポン」を後追いした流行りのスポーツ青春物の筋立て(素質に恵まれた主人公の小さな成功と挫折、ライバルの登場、努力と友情による復活)にのっていきいきと描かれています。
残念なのは、結末に至っても謎はほとんど残されたままなこと。本作では設定と主人公の動機が説明されただけで、本格的に物語が動き出すのは次作以降になるようです。その割にはやたらとページ数が多いのも気になります。
設定や描写は三崎小説っぽく微に入り細に入り書き込まれているものの、架空のスポーツであるためか、卓球、シンクロ、野球、駅伝、高飛び込み、ボクシングといった類似する他の作品と比較するとリアリティは数段落ちる印象を受けます。
たぶん当初からアニメ化を念頭に書いたのかなと思わせるに十分ですが、見てみたい?と聞かれると「別に……」と答えてしまいそうな気がします。「ピンポン」で例えればペコとスマイルを合わせたような主人公がドラゴンみたいな後輩の女の子と陰謀に巻き込まれる話ってことになりますが、アクマとチャイナがいないせいでいまいちなのかもしれません。
ピンポン (1) (Big spirits comics special)
鼓笛隊の襲来 (集英社文庫)
現実にはありえない設定なのに、言葉選びや話の進め方でリアリティを感じさせてくれる。「SF」「ファンタジー」が一切だめな私ですが、この人の作品は、短編・長編問わず、ぐいぐい引き込まれていきます。本当に上手い。
今回も、短編一つひとつが深く心にしみ入ってきました。たいてい、前向きな結末を迎えるのが好きです。たぶん、人間というものにとても期待している人なのではないかな。
となり町戦争 (集英社文庫)
書店でタイトルを見てから、ずっと気になっていました。役所が主導するとなり町との戦争・・設定としては抜群におもしろいと思います。
「となり町との戦争」というのが何なのかハッキリと書かれていませんが、どうやら本当の「戦争」のようで、実際多くの人が死んでいきます。しかし殺し合いのシーンなどは全くなく、まるで道路工事か何かのように淡々とした、お役所的事務作業の描写が中心です。そのため、とても奇妙な読後感が残りました。
個人的な解釈ですが、著者は暴力的なシーンを省くことで「戦争の本質」を描きたかったのではないかと思います。ですがそこらへんの説得力には乏しく、心に響くところは少なかったです。
本からはじまる物語
10ページほどの短い作品が18作つまった一冊です。
恩田陸さんの作品が読みたくて手にとってのですが、
印象に残ったのは別の作品でしたね。
一番良かったのはいしいしんじさんの「サラマンダー」。
初めてであった作家さんですが、切なくて素敵なお話でした。
今江祥智さんの作品はエッセイなんでしょうか、
だとしたらすごく不思議なお話で、面白く読みました。
それぞれ個性があって楽しかったのですが、
書店が舞台で、書店員が主役と言うものが多かったし、
更に本を使って暗号というお話も2作以上あり、
少し中身が偏っていたかなという印象が、マイナスポイントでした。
オトナの片思い (ハルキ文庫)
雑誌「料理通信」に連載されていた短編を1冊にまとめたアンソロジー。
片思い、と言っても、その範囲は広い。人妻が年下の男の子に持つ好奇心に似た気持ち、
離婚を宣告された男が妻に抱く未練のような胸の痛み、恋に傷ついた過去で臆病に
なっていた主人公がふと力強く誰かへの恋愛感情に気づく瞬間…どの短編も短いので
全体的に淡いタッチで、恋愛的な瞬間を1コマで描いた、という感じの軽いタッチの
ものが多く、眠る前に2〜3作品読んでも胃もたれしなくていいかも。
有名な石田、角田作品あたりは「いかにも」という感じのものだったが、
山田あかねさんや大島真寿美さんなどの初見の作家さんの作品にいいものがあり
新たなお気に入り作家さん探しのガイドブック的にもこの本いいかも(11人の
作家が競作してるのですから)と思いました。