目に見えないもの (講談社学術文庫 94)
本当に美しい言葉を使う方だなぁ、と思いました。自分の身の回りの事柄や自分の研究対象領域(量子力学)について書かれていますが、こんなに日本語って美しいものだったのだ!と感じさせてくれます。それは本人の育ちの良さ、教養が高いことも要因だとおもいますが、もしかしたら戦時中に書かれたということも関係があるのかも。本当に研究に邁進できているありがたさを感じつつ話しをしているような気がします。自分には到底真似のできない日本語で、同じ(同じではない?)日本人とは思えません。すばらしい人だ。
旅人―湯川秀樹自伝 (角川文庫)
日本人として初めてノーベル賞(物理学賞)を受賞した湯川秀樹が、自身の子供時代から27歳までの間の出来事を回想した自伝。詩情あふれる文章が味わい深く、一流のエッセイストの文章に接するように、心地よく読み進めていくことができました。なかでも印象に残った個所を引いておきます。
<秋だったろうか。通りには、風が吹いていた。こまかな雨が、えりにしみるようであった。叡山はもううす墨色になっていて、その山肌から夜が降ってくるようであった。(中略)暗くなりかけた町に、一つ一つ灯のついてゆく様は、幼い目には幻想的でさえあった。男はどこまで、灯をともしにゆくのだろう。点灯夫は、魔術師であった。そして私には、次々と灯の入るガス灯の列の彼方に、何か未知の世界が開けてゆくようであった。> 本文庫p.105〜106
<私を数学の道から簡単に追い出したのは、この時の先生の採点の仕方だった。少年はいきり立って、もう数学者には絶対になるまいと決心した。先生に教えられた通りに、答えなければならない学問。そんなものに一生を託すのは、いやだ。──> p.158
<ある日、物理学部の書棚に「量子論」という表題の英語の書物を見出した。著者はフリッツ・ライヘというドイツの学者で、ドイツ語の原著の英訳であった。面白そうなので早速買って来た。高等学校の物理の学力では、「量子論」を完全に理解することは困難であった。それにもかかわらず──というよりも、むしろ、わからないところがあればこそ──ライヘの書物は面白かった。それまでに読んだ、どの小説よりも面白かった。> p.166
とりわけ最後に引いた、「量子論」の原書(英訳版ですが)がどんな小説より面白かったと語る件り。自分にとって本当に興味の持てる何物か、学問でも趣味の範囲でもとにかく興味が持てるものと出会った時、人は真の探究者となり、と同時に、果てのない真理を求めてさすらう旅人となるのでないかと、そんなふうに感じましたね。それは、某漫画の主人公が語る次の言葉と、強く引き合うような気もしました。
<天をあおげば いかに地球が小さく 我々が点にもいたらない存在であるかがわかります しかしそれは 物理的な大きさのことです 人間の脳内にも 本来無限大の宇宙が広がっているのです その宇宙をいかに広げるか それにはまず 何かに興味を持つことです 綺麗事に聞こえるかもしれないが 私は思うのです 人間にとって最も大事なのは 多く覚えることより 早く理解することより まず 何かに深く興味を抱き それを愛することなのではないかと> 山下和美『天才柳沢教授の生活(8) (講談社漫画文庫)』〜「第133話 北極星をさがして」より
世界的に認められた一人の物理学者が、いかにして、自分にとって“心から興味の持てる学問”と出会い、その探究心を粘り強く育てていったのか。詩情に満ちた筆致で、その道のりが味わい深く描き出されてゆく本書は、実に魅力的な一冊です。
探偵ガリレオ (文春文庫)
TVドラマでは派手な演出になっていますが、本はもっと淡々としていてカジュアルな感じです。一話あたりが短いので、ちょっと時間が空いたときなんかに気軽に読めます。「科学の不思議」みたいな事を題材にしていますが、小難しいことは無く軽い内容なので読み疲れません。
旅人 ある物理学者の回想 (角川ソフィア文庫)
誰もが知る日本初のノーベル賞受賞者の思春期を綴った回想録である。読売新聞で紹介された書評を読んで、すぐに購入した。
科学者の回想録ということで、理系的なるものとの邂逅を避けていた自分が読み切れるか少し心配したが、純粋な一青年の回想録
として比較的肩肘張らずに読むことができた。
この本を通じて、思春期や青年期における教育の役割というものがいかに大きなものかを、実際の一人の学者の人生を通して再認
識でき、自分にとっては大きな収穫だった。また、当たり前のことだが、現在の日本の教育の実態を振り返ると、子供たちを取り
巻く環境が全く異なっていることに改めて気付かされた。明治・大正時代の知識層が幼い頃から慣れ親しんだ「教養」の衰退、そ
れに伴う広い意味での想像力の欠如など、現代に問われている問題が少なからず示されているように感じた。
これからの日本は、人材の持つ力で社会の成長を図らなければならない時代であると思う。だからこそ、豊かな知性を育む環境が
大切であるにも関わらず、現状はむしろそれとは遠くかけ離れていることに大きな危惧も感じた。
とはいえ、いつの時代でも人は同じような悩みや問題に直面し、それぞれに苦悩しながら成長していく点には、深く共感できる部
分もあり、湯川博士が成長した時代の雰囲気も垣間見える点も、この作品に魅力を添えていると思う。
Boy,I’m gonna try so hard.(CCCD)
槇原敬之全面プロデュースということで、いかにも彼らしいストレートであたたかい歌詞(ラブソングはラブソングでも、これは父親が子を思う「愛」である。)にほっとする。
鈴木雅之といえば大人の恋愛を歌うアーティストというイメージがあったのだが、ここではいい意味でいつもとは違うマーチンを見る(聴く)ことができる。
これを聴いてなぜか私はトータス松本の「BOXY」(トヨタの自動車)CMを思い出したが、「カッコいいお父さん」というのは結構いいもんだ。