時代屋の女房 [DVD]
時代の設定や当時の風景は古いものですが、むしろ懐かしさを感じるぐらいに
適度なもので、かえって古道具屋の店の雰囲気とピッタリ合っていて
違和感無く見ることが出来ます。
夏目雅子さんは、この作品の2年後に帰らぬ人になりますが、
しっかりと役にはまった最高の演技を見ることが出来ます。
銀色の傘をさし猫を抱いて時代屋を訪れるシーンは、すごく可愛く愛らしい。
共演する俳優陣も個性派揃いで、森崎東監督の手腕も光ります。
下町の現実的人情味ある風景に、謎の家出を繰り返す真弓のミステリアスな行動が、
アンバランスなのに何故か面白い。
ラストシーンは、とても嬉しくなりホッとしてしまいます。
映画の舞台裏を案内してくれる特典映像は必見です。
時代屋の女房 [DVD]
この映画を初めて観た時、私はまだ夏目雅子さんより年下で、邦画特有の暗さを感じ特に好きとは感じませんでした。ところが、20年ぶりに観てみるとまるで別の映画を観ているようでした。夢を求めて、ちょうどこの舞台となる品川あたりを歩き回っていた昭和の「あの頃」に戻った不思議な気持ちでいっぱいになりました。
ひとり身(渡瀬恒彦)の営む「時代屋」という骨董品屋、白いワンピースと日傘の美しい夏目雅子、アブサンという名の猫、瑠璃色のガラスの涙壷、もうそれだけで十分な絵になってしまいますが、ストーリーもしっかりしている秀作だと思います。劇中一度しか流れませんが、ちあきなおみさんの主題歌がとても昭和らしく素敵です。ビクターの陶器の白い犬の置物が、懐かしく効果的な使われ方でした。
夏目雅子さん、名古屋章さん、藤木悠さん、大阪志郎さん、沖田浩之さん。次の世に行ってしまわれた方々と、こうしてきれいな画面を通して簡単に逢うことができるのも「今」という時代なのでしょう。特典映像では、東京・大井町の今、「時代屋」の現在(なんと現存します)、涙壷の秘密などの映像が見られ、時代という買い物をした気分に満足しました。
帝国ホテルの不思議
帝国ホテルは格調高く、それなのに居心地がよくきめ細かいサービスが行き届いたホテル。
ホテルで働く30人にスポットを当てて書かれています。
それぞれの職場でまさにプロ=職人技(おもてなしの技)の数々が描かれています。
日本を代表するだけに、自分の仕事に対して、努力し身に付けたおもてなしの技を磨き、
普通に熟すまでの日々の積み重ねが見えるようです。
読み終えると、職人さんの働きぶりをこの目で、肌で感じてみたくなりました。
本を読んだ後に行く帝国ホテルが楽しみです。
アブサン物語 (河出文庫―文芸コレクション)
犬や猫をペットとしてしか見てない人にはあまりオススメできないかも。
はじめ、著者の猫に対する姿勢が好きになれずなかなかページが進まなかったが、読み進むうちに自然と受け入れるようになり楽しくも最後は涙ながらに読了することができた。心があったかくなる本です。アブサンのイラストも良い。著者の他の本にも興味が持てました。
俵屋の不思議
最強の京都本の一つである。
村松友視はいわずと知れた直木賞作家。
独特の切り口と語り口でファンが多い。
俵屋は、京都麩屋町の高級和風旅館。サルトル、バーンスタイン、ヒッチコックなど超セレブ級のセレブが泊まることで知られる。
その村松友視と俵屋のコラボレーションである。
村松が俵屋をルポするのではなく、村松と俵屋がガップリ四つに組んだ共同作品。どちらが主体/客体ではなく、主客一体の「超作品」なのである。
村松はその独特の文体で、俵屋に関わる様々な人々の生き様と、俵屋に寄せる思いを描き出す。
出入りの職人たち、商人たち、従業員たち。
いずれも京都の市井に生きる一線級の人々だが、村松の筆によって「超一線級」に浮かび上がる。
村松の筆が彼らを生かし、彼らによって生かされる。
俵屋は彼ら(村松を含む)を生かし、彼らによって生かされるのだ。
そう、俵屋は単なる旅館ではなく、アイコン、偶像、いやもしかしたら俵屋に関わる多くの人々の人格から成る一個の「超人格」なのである。
収録されている写真の数々も素晴らしく、「超表紙級」の唐紙のカバーも俵屋そのものである。