6 Suites for Cello Solo Bwv 1007-1012 [DVD] [Import]
1番から聴き始める。豊饒で巧いヨーヨー・マや、ほとばしるようなシュタルケルの録音に慣れた耳では、プレリュードからしてがっかりするかもしれません。録音の出力レベルが低いのでしょう、テレビの音量を通常の倍ほどに設定して、音量的にはやっと8割程度の満足度。それでも淡々と丁寧に、時折微笑を交えながら聴き手に媚びを売ることなく、一音一音バッハの音楽を紡いでいくペレーニ氏の姿に引き込まれ、そのうち音量の事など気にならなくなり、その素朴で味わいの深い音楽作りに魅了されます。6番のサラバンドの楚々とした語り口など、静かに胸に染み入り心揺さぶります。素朴で素敵なバッハだと思えました。星1つ分は、やはりそうは言っても録音レベルのマイナスです。
Miklos Perenyi & Denes Varjon / Bach.Brahms.Britten
ベテランながらCD自体が少ない上、さらに録音状態のよいものも少なかった中、広告に違わず高品質な録音だった。
ペレーニらしく、穏やかだが軽やかなバッハは自然体な演奏で、当たり前のように耳に寄り添ってくる音が、とても心地よい。
そしてがらりと雰囲気の変わるブリテンでは、不気味さと軽快さを兼ね備えた曲調のツボを、ペレーニの妙技がまさにどんぴしゃで突いてくる。緩急の緩い部分はひたすら音を聴かせ、急ピッチなパッセージではあの正確なボーイングが目に浮かぶ、舞うような弾むような音の氾濫が心を沸き立たせた。ピアノとの対話もばっちり。
ブラームスは、ペレーニのアクのない伸びやかな音がじーんと心に浸透してくる。五臓六腑にしみわたる良質のキリリ系日本酒(熱燗)のような、温度感といい舌触りといい、技ありの味わい。
ライブ録音ならではの、本人による曲紹介のおまけも嬉しい。男性にしては線が細くて、とっても優しい声音は、演奏そのものという印象だ。
きわめつけにアンコール曲のショパンがまた最高。ホールでじかに聴いたら多分帰りたくなくだろう居心地、聴き心地の良さ。昼下がりに転寝してたら、そっとブランケットをかけてくれた的に、マットで柔らかい音がすばらしかった。
ベートーヴェン:ピアノとチェロのための作品全集
一部に熱狂的なファンのいる、ペレーニのベートーヴェン。
今回初めてペレーニのチェロをまとめて聴いたが、とてもマイルドで、
奥ゆかしい、とでもいうべき感触でした。最近の若手とは全く違う感じ。
シフは立派なピアニストで、音色もとても美しいのですが、この録音では
チェロの音がピアノに消されてしまっているような・・、録音の問題?
ちょっとシフがフォルテで弾くと、チェロの音が聴こえなくなります。
古いですが、ロストロ先生+リヒテルの盤では、それは感じませんでした。
ということで音のバランスに疑問を感じるので☆3つです。残念。
J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲 BWV 1007-1012 (全曲) (J.S.Bach / 6 Suites For Cello Solo BWV 1007-1012 / Miklos Perenyi) [DVD] [日本語解説書付]
1996年MTV(と言ってもあのMTVではないようだ)ミュージック・プログラムのスタジオにて収録。ミクローシュ・ペレーニはハンガリー出身で1948年生まれ。地元ハンガリーのHUNGAROTONの収録が多く、同じハンガリー出身のアンドラーシュ・シフとの共演が多い。特徴は長いフレーズでも完璧にこなすボウイングだろう。
そのベレーニが48才の時にこのチェリストにとっての聖典を映像とともに残したわけだが、僕には未だ早かったのではなかったか、と思えてしまった。多くの先達が自らの力が充ち満ちたと意識した時にこの聖典は演奏されてきた。それ故余りに素晴らしい演奏がたくさん残されている。例えばロストロポーヴッチの素晴らしい演奏を解説を挟みながら聴いたあとでは、ただたくさんのチェロに囲まれている不思議な映像の中の彼の演奏は、未だ若い、と思える。
この約5年後、アンドラーシュ・シフとベートーヴェンのチェロ・ソナタのアルバムをECMで収録しているのだが、この時とは別人のような演奏になっている。マンフレット・アイヒャーのプロデュースの力も大きいのだろうが、是非そちらも聴いて欲しい。
ここでの演奏は時が満ちていない気がする。時が満ちたときにECMのすばらしいスタッフと共に是非再度録音して欲しい、そう思う。
チェロのための無伴奏作品集
本盤の演奏者、ミクローシュ・ペレーニは1948年ハンガリー・ブダペスト生まれのチェリスト。9歳で初コンサートを行なって以来、現在リスト音楽院
の教授職を勤めながら世界都市で演奏活動を行うベテラン。録音作品が余り多くないこともあり日本での知名度はそれ程高くないかもしれない。同
じハンガリーの同胞であるピアニスト、アンドラーシュ・シフとは旧知の仲でコンサート・録音作品では彼との共演が多く見られる。
ECMレーベルからとなる新作は、ブリテンのチェロ組曲第3番Op.87、バッハのチェロ組曲第6番 BWV1012 、リゲティのチェロソナタという3編の無
伴奏作品を収録。無伴奏チェロ作品集ということで若干取っ付きにくさを感じたが、実際聴くと深い感銘を受ける見事な演奏に出会えた。
ベレーニの演奏は余計な装飾や過剰な表現がなく、演奏者の意思を弦に託した真っ直ぐな音色が印象深い。収録曲はどれもチェロ奏者にとって演
奏至難の曲だそうだが、彼の演奏は技巧や奏法等細かい部分を理屈で考える前に、音を心へと直に響かせる強い説得力、勢いを感じさせる。
高音部の弦を1本追加した6弦用に書かれたものを、現代では5弦で演奏する故困難が伴うバッハのチェロ組曲6番。彼の演奏から伝わるのは高度
な技巧の誇示ではなく、簡潔で美しい単旋律の奥深さ。たっぷりとした音空間に伸びる旋律を聴いていると、自分が何かとんでもなく広大な空間に佇
む様な感動がある。技巧の困難さを超え楽曲の核の魅力を伝えるのは並大抵のことではないだろうが、彼の演奏は確かにそれに気づかせてくれる。
最も興味深く聴いたのが20世紀の作曲家、ジョルジュ・リゲティによる2楽章構成のチェロソナタ。チューニングを自在に変化させ生まれる特異な響
きや、刻みを細かく変えるパッセージが空間を歪ませ聴く人を不思議な世界へと誘う。ここでペレーニが魅せる広い音域と音量を自在に操る実にダ
イナミックな演奏は、風変わりな響きの面白さも相まって高い興奮を覚える。
彼の演奏は、1台のチェロから聴く者の心と空間を支配する磁力を生むことが可能であるという、無伴奏チェロという演奏形態そのものの魅力に気づ
かせてくれる。迷いの無い凛とした彼の音色は、音楽を愛する人なら何かしら心に引っ掛かりを与えるのではないだろうか。