ブルーベルベット(オリジナル無修正版) [Blu-ray]
映画マニアのレビュー常連諸氏も。
小子は昔、渋谷・スペイン坂の上にあったロードショー館(今はもうないと思う)で本作を初公開時に見た。もちろんデビッド・リンチ監督の映画は本邦初登場作となった『エレファント・マン』もちゃんと東京・日比谷の有楽座でのロードショー公開で見ているし(米国アカデミー賞で主要部門を制覇した映画だったので当然だが)、日本ではその後に公開された長編第一作の『イレイザー・ヘッド』もその公開年に名画座でちゃんと見ている。
それから月日が経つこと数年、本国でも日本でも毀誉褒貶が激しかったためか、とっくに記憶の中から消えかけていたリンチの名前を久しぶりに発見して、これは絶対ロードショーで見なければならないとある種、使命感のようなものを帯びて劇場に臨んだのだが、その判断は全く間違っていなかった――というのが本作の第一印象だ。
まず全然予備知識がなかった、というのが良かったのだろう。この映画が狙っているところが最初は何が何だか全くつかめず、ただただその人を食った展開にどんどん引き込まれる。だから未見の方々のために本レビューでは極力、話の内容に触れることは避ける。
一言で言って、本作はハリウッド王道の「ジャンル」という枠組みを完全に逸脱し切った、ほとんど最初の本格娯楽映画だ。要素としては、ハードボイルド(探偵映画)やフィルム・ノアール(ギャング映画)をなぞらえる部分が多い(おばさんたちがTVでそういう映画を見ている場面があって、ちゃんとリンチはそういうことを観客にはわかるような仕掛けはしている)が、古典的な定石はどんどん外しまくる。だが決してリンチは観客をただただ混乱に陥れる、というようなことはしない。それを支えるのがリンチの愛情に満ちた人間観だ。ここはやはり『エレファント・マン』を若くして作っただけのことはあると思う。
LD(松竹富士の国内盤LDは肝腎の暗部階調が失せた性悪画質だったが)、DVD(ニューマスター盤でようやく満足する画質となった)とメディアを変え、2度、3度見る回数を重ねてくると、本作の持つそこはかとないユーモアと、その一見したところではグロテスクに映る外観とは違って、愛に満ちた物語と絵作りに、ほれぼれとする瞬間に何度も出くわすことができるようになる。例えば、ラストの子供を捕らえたショット一つとっても、そこでの人工鳥のさえずりさえもが美しく捕らえられる。
決定的な場面に出くわしたローラ・ダーンの口もとが歪むシーンの絶対的な可笑しさなどは、この女優はこの口もとの演技のためだけに採用されたのではないかとさえ思う。
そういう繰り返し見ても楽しい場面を満載した本作なので高画質なブルーレイはうってつけだろう。
小子は日本語字幕入りのドイツ盤をすでに購入済み(リージョナルコードはABCの表示あり)。
ジャポネース・ガランチード―希望のブラジル、日本の未来
ブラジル百年にみる日本人の力
『ブラジル百年にみる日本人の力』と併せて読みたい。というか、本書はその続刊みたいな位置にあろうか。
内容が前掲書にかなりリンクしていて、併せ読むとより内容が頭に入る。前掲書で描かれていた「日本人の力」がさらにクローズアップされている。
読むごとに、「日本人ってこんなにすごいの?」と思い、わくわく感が増してくる。
ちなみに、聞きなれないタイトルである「ジャポネース・ガランチード」とは、「日本人なら保証付きだぜ (*^ー゚)b 」「日本人は信頼できる」みたいな意味らしい。そこまで信頼されているとこそばゆい。そういう信頼は裏切りたくないし、そういう信頼を築いてきた先人の方々に恥じない行いをしなけりゃな、などとわが身を思わず振り返ってしまった。
未来世紀ブラジル [DVD]
この映画の世界は「ディストピア」ということになるのでしょうか。映画を見て爽快な気分になりたい方にはお勧めできません。市民は利便性を無視した無駄な規則に縛られ、役所は市民の届出をたらいまわしし、役人の汚職・失策とその隠蔽がはびこっているにもかかわらず、大多数の市民はその現実に気づこうとしない。とある極東の島国の現状を思い出させます。絶望的な世界で半ば思い込みの恋愛にしがみつく主人公、陽気なテーマ曲、随所にちりばめられたコミカルな場面、ドギツさと紙一重のビビッドカラーの氾濫、すべてが混ざり合ってとても印象的な映画です。
未来世紀ブラジル [Blu-ray]
(2012.9.21追記)
2012年12月に北米クライテリオン社より
『未来世紀ブラジル』コレクターズBDが発売されることが決定したので、
現在手に入る本作のBD/DVDソフトの違いについて記しておきます。
国内盤DVD(ジェネオン)
本編:143分インターナショナル版(日本劇場公開版)
音声:英語リニアPCM 2.0ch
特典:メイキング”What is Brazil?”、予告編
国内盤BD(フォックス)
本編:144分ディレクターズ・カット版
音声:英語DTS-HDMA 2.0ch、日本語DTSステレオ(TV放送版、カット有)
特典:メイキング”What is Brazil?”、予告編
北米盤BD(ユニバーサル)
本編:132分US劇場公開版
音声:英語DTS-HDMA 5.1ch
特典:なし
北米盤(クライテリオン)
本編:142分ディレクターズ・カット版(国内盤BDと同内容。ギリアム監修の修復マスター使用)
音声:英語DTS-HDMA 2.0ch
特典:94分ハッピーエンド版本編、テリー・ギリアム監督による本編コメンタリー、
メイキング”What is Brazil?”、ドキュメンタリー”Battle of Brazil”、
脚本についてのドキュメンタリー、ギリアムによるストーリーボード、
ドキュメンタリー集:プロダクション・デザインと特殊効果について/
衣裳について/音楽について、予告編、解説書
(以下、オリジナルのレビュー)
本作には大まかに言って、
ヨーロッパおよび日本で劇場公開された144分版と、
米ユニバーサル社のM・シャインバーグが結末などに改変を施した94分の
「最後に愛は勝つ(Love Conquers All)」バージョン、
そしてアメリカ公開用にギリアム監督が再編集を行った132分のUS公開版の
3つのバージョンが存在します。
このブルーレイに収録されているのは、基本的には144分版をもとにし、
オープニングのみギリアム自身が「オリジナルよりも良い」と認めているUS公開版のもの
(元は黒地にテロップなのに対し、雲の上を飛ぶ映像が入る)に差し替えたバージョンです。
北米クライテリオン社のDVDでは、この版をファイナル・カットとして収録しています。
一方、現在北米ユニバーサルから発売されているBDに収録されているのは
132分のUS公開版であり、特典も皆無。
それに比べれば、完全版の本編に加えて30分のメイキング”What is Brazil?”と予告編
(国内盤2枚組DVDに収録されていたものと同内容)
も収めた国内盤は、良心的なリリースであると言っていいと思います。
クライテリオンの3枚組DVD-BOXに収録されていたさらなる特典
(「バトル・オブ・ブラジル」ドキュメンタリーなど)や94分バージョン
も収めてくれていればさらに完璧でしたが、
それはクライテリオンからのBDリリースを待つしかないでしょう。
基本的に、国内盤の仕様は合格点だと思います。
さらに他のバージョンも観てみたいという方は、USユニバーサル盤を取り寄せるか、
クライテリオンからのリリースを待つのもいいのではないでしょうか。
未来世紀ブラジル オリジナル・サウンドトラック
一度でも映画「未来世紀ブラジル」を見てしまった人間は、一生このメロディが記憶から消えることはないであろう。
消えるどころではなく、一日中このメロディを聴いていたいときがある。そんなときに必要な1枚である。