震える舌 (講談社文芸文庫)
ある日突然、幼い娘が身体に変調をきたした。
言うことを聞かず食事も満足に取ろうとしないのを皮切りに、
手指の自傷、臀部を左右に振る奇妙な歩き方、赤いポストや物音に対する過剰な反応。
そして夜毎の下顎の痙攣と、舌の咬傷。
当初は心因性のものと考えていた両親も、症状の激烈さにただ事でなさを感じ、
近所の診療所、救急病院と駆け回るが、正しい診断が下されないまま無情に時間だけが過ぎていく。
やがて行きついた大学病院で、怖れていた診断が下る。
破傷風。
即座に治療が開始されるが、娘はわずかな物音で頻回に激しい痙攣を繰り返し、
呼吸困難からチアノーゼをきたす。
そばに付き添う両親は寝る間もなく看護に明け暮れ、
自身も感染しているのではないかという恐怖感から次第に精神を病んでいく。
日本ではほとんどお目にかからなくなった病気だが、途上国を中心に年間5万人程度の死者を出す破傷風。
その死亡率は現在でも50%にのぼるという。
破傷風という病気に対する生々しい知識を得られるのもさることながら、
幼い子どもを病魔に蝕まれる両親の悲嘆や諦観、さらには極限状態における病的精神にまで踏み込んだ
鮮烈な作品。
ふたりはともだち (ミセスこどもの本)
オリジナル版"Frog and Toad Are Friends"は、Reading Level 2ということですので、Level 1 程度の英語の本を読むことも慣れ、さらに興味のあるストーリーを読みたいというお子さんに向いていると思います。文字は少し大きめ、ストーリーも表現もシンプルです。私はこのストーリーのオリジナル版と日本語訳版の両方を持っていますが、日本語の方が気に入っています。原文に忠実ですが、幼稚園児にもわかる言葉が使われていますし、なによりも文章全体に温かみが感じられます。それがこのオリジナルの可愛らしいストーリーを一層ひき立てているように思います。日本語の奥深さを再認識した一冊でした。
K
亡くなった夫人の詩人・福井桂子さんのことを描いている。夫人は「K」という名であらわされるのだが、最後のほうになると、『福井桂子全詩集』などとあからさまに名前が出てくる。私はこのあたりが面白いと思った。そして、私小説というのはこういうことでいいのだ、とも思った。若いころの三木さんが、給料を渡すと全部使ってしまった奥さん、いっぷう変わった人である。『震える舌』に描かれた娘さんのことも出てくる。最後に奥さんが亡くなるころ、甥というのが出てくるが、この人は両親と兄を失い、これからひとりぼっちになる、とある。文体は童話のようで、三木さんのたどりついた、人は一人で生まれてきて一人で死んでいくのだということが、あらわれているような気がした。
月の誘惑
日本語を交えた曲からオリジナル、スタンダード曲とジャンルにとらわれない幅広いレパートリーを持つ、しげのゆうこさんのニュー・アルバム。「Ribbon In The Sky」は得意の弾き語りでフィーリングたっぷりなヴォーカルを楽しませてくれる。「Memory In The Dark」はオリジナル・ナンバー。バラードで歌われる美しいメロディーが印象的。アルバムには4管のホーン・セクションが参加しているが、彼女の中低音域のヴォイスと相性もたいへんよくバラエティにとんだ内容の作品。
ふくろうくん (ミセスこどもの本)
ふくろう君,一人暮しですね。
寂しくはないかと思いきや,そういうこともなさそうです。
エンピツが短くなっちゃったなどと言ってぽろぽろ泣いたかと思うと,
じきケロッとしてのんきにお茶を味わっているくらいですから,
まあ,きっと一人には慣れっこなんでしょう。
もしかするとふくろう君は,一人ぼっちだなんて,
これっぽっちも思っていないんじゃないかな。
毛布をかぶせたりはがしたりするのも忙しいし,
階段をかけ上がったりかけ降りたりするのも骨が折れるし,
訪れてくるものもいろいろとあるようだし。
そういう自分を眺めていれば,それだけでいつも「二人」なのかも。