風に舞いあがるビニールシート (文春文庫)
まずは表題作。現地採用という殻に閉じこもっていた主人公が、ついに危険な現場に赴くことを決意するまでの心の動きを描いています。国際機関に勤務しながらも、なお性役割を引きずって生きている日本人女性を、異なる文化背景を持つ外国人の元つれあいがどう見ていたかなど、なかなか興味深い記述も多く、直木賞受賞にふさわしい仕上がりとなっているように思います。
「器を探して」というタイトルは、真に自分に見合うような男性を探してという意味も込められているのでしょうか。まあ「俺と仕事のどっちを取るんだ?」という男性には、間髪入れず「仕事!」と答えて、さっさと別れるのがよろしいかと思いますが、結末は…
「犬の散歩」では、ふとしたきっかけから、安易な専業主婦の日常に訣別し、ハードな毎日に身を投じてゆく女性を描きます。「守護神」では、ひたむきに生きる女性が、ともすれば落ちこぼれそうな主人公の男性に元気を与えています。
いずれの作品も、落ち込んでる人にはぜひすすめたい物語ばかりです。ここに登場するような女性たちがこの国の主流であればいいなと思いますが、まあ現実は残念な状況です。
残る2作品は、打って変わってほぼ男性ばかりが登場します。
「鐘の音」はミステリ仕立てのお仕事小説。上記4作品を生み出した作家が、一方でこんな作品も書けるということに、大きなポテンシャルを感じました。
「ジェネレーションX」もなかなか後味のよい友情物語で、6編全てが帯にある「お金よりも大切な何かのために懸命に生きる」というコンセプトで一貫していることを確認しました。
八日目の蝉 通常版 [DVD]
この時間にうまくまとめたなと感じる完成度の高い作品だと思いました。 ひねくれてみなければ普通に感動し涙します。 実際、フェリーで捕まるシーンや写真館での回想シーンでは泣いてしまいました。 悪いと評価している人もいますが、これはいい作品だと思いますよ。 個人的にはシリアスな映画に劇団ひとりはミスキャストの気がしますが…
八日目の蝉 [Blu-ray]
ある事件がきっかけで、薫として幼年時代を過ごすこととなった恵里菜が、失われた過去を求める旅に出て、遂に埋もれた記憶にたどりつく最後の場面が感動的な映画。
恵里菜は薫だった時の経験はないから、薫時代は、発端となる事件を起こし、彼女を連れて逃亡生活を送った希和子の視点で描かれる。
つまり、薫時代と成長してどこかに心の空白を抱えた恵里菜の現在とが並行して描かれ、その2つの線が鮮やかに交差して恵里菜の自分探しの旅が終わる。二本の時間軸に沿った構成がしっかりしていて巧みだ。
アイデンティティが極端な形で引き裂かれた一人の女性の自分探しがテーマだが、自分探しという点で共感する人は多いだろう。
男のだらしなさが強調され、女優陣の健闘が印象的な作品だが、二つの軸のうちどちらに強く惹きつけられるかといえば、薫を連れた希和子の放浪の旅。希和子は犯罪者としてびくびくしながら逃亡した訳だが、そこには生の充実があった。だから、希和子にいつまでも逃げて欲しいと応援してしまう。その希和子を演じる永作博美の好演が光る。
下町ロケット
とてもとても面白い本です。
実はインフルエンザで寝込んでしまって苦しみぬいた後、友達にすすめられ寝ながら読んだ本。
「病み上がりに読むにふさわしくなさそう・・・」とダラダラページを勧めたが、
これがこれが実によくできた本。
下町の中小企業を舞台にした地味〜な先入観は捨ててください。
倒産の危機に陥った佃製作所、でもそこで働く人たちには心があり、夢があり、情熱がある。
取引先から見放され、ライバル会社からは特許侵害されながらも腐らない。
夢が莫大なお金をうむ仕事へとつながっていく・・・。
読後はすっかり元気に復活できた、読む人に元気をくれる本。